憂慮 ■1/2
本来は客が来た時に使うソファに座り、十斗はぼんやりとテレビを見ていた。
相棒の破軍はもうすぐ昼だというのに事務所に姿を見せない。客も来ないし相棒もいないと、それなりに広いこの部屋にいるのが居たたまれなくなってくる。
気晴らしにどこかに出かけようかと考えていると、突然ぎぃと音を立てながら入り口の扉が開いた。そちらに目をやれば、黒づくめの男が部屋に入ってくるところで。
「よう」
やっときたかと片手をあげて相棒に挨拶をする。しかし彼はちらりと一瞥した以外何の反応も示さない。
いつものことだと悲しく思うこともなく、視線を再びテレビに向ける。
たいして面白くもないバラエティ番組だからか内容が頭に入らない。最近売れ出したという芸人の過去話など興味はない。
視界の隅で破軍が自分のほうに向かってくるのが見える。
十斗が座っているソファの横には古びたスチールデスクが二つ、向かい合わせに並んでいる。ソファに近い方が破軍の席だ。近寄ってくる気配がいつものようにその席に座ると十斗は思っていた。
だが気配は途中で止まることなく己の目の前で立ち止まる。
テレビが破軍の身体で見れなくなり、十斗は抗議しようと顔をあげる。
「どけよ」
上目遣いで睨むが、自分を見下ろしている目が普段のぎらぎらしたものではないことに気づく。
こんなにも寂しそうな瞳をするのは中々ないことで、何があったのかと不安になる。
破軍の兄である貪狼と口論した時も不機嫌になるものの、この男に不釣り合いな静かな気を纏うことはない。
「……おい、どうした?」
ただただ自分を見つめてくる破軍に、十斗は腰を少し浮かし彼に手を伸ばす。
十斗の手が破軍の頬に触れた瞬間、微動だにしなかった破軍がその手を掴んだ。
「破軍?」
名を呼ぶと破軍は倒れこむように十斗の方へ身体を寄せる。ぐっと破軍の体重が身体にかかり、十斗は再びソファに座りこんだ。
ずるずると破軍の頭が十斗の腹のほうへと落ち、彼の両膝が床につくと同時に両腕が腰に回される。
「なっ、おい!?」
驚いて腰に巻き付いた破軍の手を引き離そうとするが、背中にまわされた腕に力をこめられびくともしない。むしろ抵抗は無駄だと言わんばかりに顔を腹に擦り寄せられる始末。
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