お姫様に口づけを

 ソファの上で寝ている彼に近づく。
 敵同士なのに、どうしようもなく惹かれあった私たち。
 上からのぞきこむように彼の顔を見つめる。

「……きれいな顔」

 女である私が思わず嫉妬してしまうくらいに。
 肩よりも長い黒髪も、艶やかで羨ましい。
 私はそっと彼の唇に自分の唇をつける。
 細く鋭いけれど、その奥には優しさのある目が閉じられているからした、のに。

「目覚めのキスかい?」

 唇を離せば、彼と目があって。

「普通は逆じゃないの?」

 照れを隠すために少し刺々しく言葉を吐く。
 すると彼は私の髪を一房手に取り、口づける。

「それはすまないね、お姫様」

 きざったい彼。
 むかつくのに、嬉しいなんて。

「悪いと思うならかまいなさいよ、瞬」

 名前を呼べば、そんな顔で笑うなんてズルいわ。


作成200912
317字


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