唇にさくら色

「あーあ、この季節って最悪だよー」

 ラブはそう言って、ポケットからリップクリームを取り出す。

「どうしたの、ラブ?」

 私が聞けば、ラブは眉をひそめて、

「唇が乾燥で荒れちゃってさ、血が出てきちゃったんだぁ」

 と不満そうに呟き、リップを下唇に塗り始める。

「え、大丈夫なの?」

「これくらいだったら、まだ平気だよー」

 そう返しながら、大丈夫かなと鏡を取り出して塗り具合を確認するラブ。
 ほんのりとピンクに染まったラブの唇を見て、思わずドキリと胸が鳴る。

「あ、そうだ」

 じっとラブの様子を眺めていると、ラブはのそのそと四つん這いになって私に近づいてきた。
 何かと思って身を乗り出せば、ラブの顔がとてつもなく近いところに来る。

「…………な、ラブっ!?」

 私は慌ててラブから離れる。
 私の唇には、先ほどあてがわれたラブの唇のやわらかい感触が残っている。

「せつなもリップ、しといたほうがいいよー。せつなの唇もガサガサしてる」

「そ、そう?」

 二、三歩離れたところで立ち止まる私。
 心臓が頭で響いてるみたいに、大きな音で動いている。
 ラブは手に持っていたリップを私に差し出すのかと思えば、自分の唇にさらに重ねづけをし始めた。
 そしてつけ終わると、むふふと笑いだす。

「私がつけてあげるよ」

 私の手を取ったラブは、そのままその手を引っ張る。
 私がラブの胸に飛び込むようにいけば、ラブは私の肩を掴んでまた唇を重ねてきた。
 私の唇を吸うようにして、ラブの唇についたリップを私の唇につけていく。

「……よし、完成!」

 私は驚きと恥ずかしさで顔を真っ赤にして、口をパクパクさせる。
 言いたいことがたくさんあるのに、言葉にならない。

「これでせつなの唇も、私と同じさくら色だよ」

 それでも目の前でにこっと最上級の笑顔で笑うラブに、何もかもごまかされてしまったように私は頷くのだ。


作成200912
750字


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