息をつめて やさしく触れて




「彼に会うのは初めて?」

長い足を持て余すように進めながらクザンが問いかけると、スモーカーは「はぁ」と気のない返事をした。
そもそもインペルダウンに足を踏み入れることだって滅多にない。それもかつての巨悪が死を望みながらもそれすら許されない絶望の階だ。

「あららら。……じゃあ、約束を3つ覚えてね」

クザンはいつも通りの食えない顔をこちらに向けるが、すぐにまた前を向いたその横顔には一瞬で剣呑な空気が宿ったことにスモーカーは気付いた。

「1つ、彼の目を見て話してはいけない」

カツン、カツン。靴音だけがやけに響く。

「2つ、彼に個人的なことを聞かれても答えてはいけない」

一歩、一歩。進むたびに空気が重く冷えていくような気がする。

「3つ、ここから先は決して他言無用」

しぃっ、と唇に人差し指を立て、目の前に立ちはだかる重苦しいドアを押し開ける。
思わず顔を顰めてしまう、石と鉄が擦れる不快音と共にドアが開くと、このような場所にはふさわしくないクラシックが小さく聴こえてきた。

だだっ広い空間の中に大きな鳥かごのような檻が見える。音楽はその中から聴こえてくるようだ。クザンにならって、その部屋の中央へと進む。
山積みになった本。一目で見て高級とわかるティーセットと、そこからするキーマンの香りが鼻をくすぐる。座り心地の良さそうなソファに腰掛けて、鼻歌を歌いながら指揮者のように指を振ってリズムをとる一つの影にスモーカーは気付いた。

「おや、クザンと……東の海でとれるこの葉巻の香りは……ああ、噂のスモーカーくんかな?」

影は振り向きもせずこちらの正体を言い当て、スモーカーは僅かながら動揺した。

「おや、スモーカーくん、脈が少しあがったね?大丈夫、そんなに怖がることはない」

弦楽器のような優しい声はまさしく医者然としていて、このような空間には似つかない響きを持っていた。

「ヤコウ医師、また貴方の助力を願いたい」

いつもの、のんべんだらりとした様子からは信じられないほど固い声色。
あの、クザンが、緊張している。
伸ばしっぱなしのような長い白髪をリズムに合わせて揺らしながら人差し指を振り回していた背中が、ぱっとこちらを振り向いた。

「それで?私に何を聴きたいのかな?」




***

心理学者の権威だった主人公は、ある日自身の病院内の全患者・ナースを大量虐殺。
その場で生け捕りにされたが、彼の膨大な知識と正確な行動心理学分析を買われインペルダウンに拘束されることとなる。
長い白髪は事件当時に発狂してなったもので、実際の年齢はまだ三十代後半くらい。

普段はとってもおっとりとしていて優しいしとても気狂いには見えない。ただ事件の資料を読み解いているときや犯人の思考に「同調」しようとスーパーマジキチモードに突入するときは(ああ、やっぱりこの人狂ってるわ)って周りが再認識するくらいには狂ってる。
徐々に彼に惹かれていくスモーカーと、それをあまりおもしろく思わないクザンなど、海軍との絡みがメインになりそう。



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