あやかしやこう 3





ぱちり、と目が覚める。職業柄、比較的短時間の睡眠でもある程度疲れが取れる体質になってしまっている。

んん、と小さく声を出して起き上がろうとするが、右手に熱を感じてそちらを見る。知らない男の指を握っていた、多分無意識に掴んでしまったんだな。申し訳ない。
慎重に手を離し、熟睡する男の顔をまじまじと覗き込んだ。ゆるい癖のある黒髪に、雀斑だらけの顔。もしかしたら、俺と同い年くらいかもしれない。
きっとさっきのおじさんの仲間なんだろう。それにしてもあの人、あんな適当なお願いで自分の船まで俺を連れてきてくれたなんて、見た目によらず随分とお人良しなんだな。
身を起こして、積み上げた本や紙切れ、隅に押しやった洗濯物など乱雑な部屋を見回すが、あの特徴的な姿はない。


「ねえ」


さっきのおじさんの居場所も聞きたいし、できれば風呂にも入りたい。気持ちよさそうに寝ているところを起こすのは少々申し訳ないが、遠慮がちに肩を揺すった。


「ねーえ」
「すかー」
「おーい」
「ん…?…すかー…」


バシッ。あ、いけね。つい頭を叩いてしまった。男は、んあ?と間抜けな声をあげて半分だけ開いた目で周りをキョロキョロした。


「すまん、有事につき起こした」
「あっ、すまん寝てた。で、お前だれだ」
「俺?ヤコウ」


目の前の男のマイペースな質問にくすりと笑いながら答えてやる。「そうか!俺はエースだ、以後よろしく」そう言って大きな手を差し伸べてきたので、握り返した。からからと明るい笑顔に雀斑がよく映える。気立ての良さそうな男だなと思った。


「そういえばエース。俺を連れてきたおじさんは?」
「あっいけね。起きたらマルコんとこに連れてくんだった」


ああ、そういえばマルコという名前だったかもしれない。エースは俺の手を引いてドアへと向かう。が、あ!そうだ。とこっちを振り向いた。


「先に軽くシャワー浴びたほうがいいかも。お前、すっげえ汚ぇから」
「エースって、失礼なやつだなあ」


でもそんな不躾な感じが妙に心地よくて、ぶはっと笑ってしまう。まあ確かに、長に謁見するのにこんなぼろぼろでは失礼なのは俺の方だろう。
エースの厚意に甘え、シャワーを浴びて彼の着替えまで拝借してしまった。


「悪い、助かった」
「ああ、いいんだ。しかしお前、思ったより小せぇんだな」
「違う。少し細身なだけだ」


二人で言い合いながらマルコさんの部屋の扉を開けると、いつの間に仲良くなってんだよい。と部屋の主に笑われた。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -