裏切りは今日も僕の名を呼ぶ




「お前だけは、おれを裏切るなよ」

みっともなくも震えてしまった声も気にせず、駄目もとでヤコウに命令をする。
でも俺は、知っている。


「若様、愛しています」

熱っぽい視線を向けたままそう囁いたヤコウの唇が、俺の頬に、唇にやわらかいキスの雨を降らせる。その仕草に胸が熱くなって、泣きたくなる。
違う、そうじゃないんだ。
耳元で強請りごとをすると、ヤコウはいとも容易く、承知いたしました。と短く返事をするとシャツのボタンに手をかけ一つ一つ外していく。

いつからこんなことになってしまったんだろう。

一番初めにこいつが俺の部屋に現れたとき、その目が亡き弟に似ていてどきりとしたことを覚えている。よくよく見れば全然違うこの男を、弟の代りにしたかったのかもしれない。俺に盲目的で、従順な、理想の弟に。
でも、いつの間にかその思いは影を潜めていき、代りに別の感情が俺の体を支配するようになった。

なんのためらいももなく上半身を露にするヤコウの体は、褐色の肌がとてもすべらかで美しい。俯くたびにさらりとこぼれる金色の髪は上等な絹糸のようだ。
世界貴族御用達のメイド協会から派遣されてきた男。もちろん雇うからにはどこの海出身か、果ては誰の子宮から落ちてきたかまで隅々まで洗い済みだ。こいつは一転の曇りもなく、まっさらだった。
だけど、たまに無性に不安になる。

きつく抱きしめると、ふふ、と小さく声を漏らすように笑うヤコウの熱の篭った吐息に、俺の心はもうぐずぐずに溶かされてしまう。


「若様、ベッドに移動しても?」

「……許可しよう」


その言葉を待っていたかのように、ヤコウは付き合いたてのガキがするみたいに、俺の指に自分の指をするりと絡ませた。俺と目が合うと照れたように笑い、そんな顔はまるで本物の恋人みたいなそれで、俺はつい期待してしまう。

なあ、ヤコウ。
たくさんのキスより、律動より、俺はお前からの一つの約束が欲しい。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -