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ある海賊船の討伐命令を本部から受けたクザンは、いつものようにあっという間に敵船を壊滅に追いやる。盗品などを徴収しながら船の中へと進んでいくと、隅のほうでガチャリと鎖がすれるような音が聞えた。

「誰かいるのか?」

声をかけても返事はない。音のした方向へ進んでいくと座敷牢のような中に、鎖でつながれている少年を発見した。
栄養不足と恐らく日光をまともに浴びなかったせいで、下着すら身につけていないその体はまるで枯れ木のようにがりがりで、後にヤコウが自称した15歳という年齢にはとても見えない。(正確な監禁年数は本人も分からないようなのでこの年齢自体も怪しいが)
加えて、監禁されている間何も教育を施されなかった彼は言動も幼く、保護した当時は10歳にも満たない風体をしていた。

「なァ」

声をかけると少年の小さな体はびくりと震え、やがて恐る恐るクザンの方を見やる。げっそりとやせて落ち窪んだ目には黄疸が見られ、恐怖で涙の膜を張っていた。
生存を確認し保護しようとしたクザンだったが、座敷牢の鍵が見当たらず扉を蹴破ったのがいけなかった。音に怯えたのか、突然暴れだし挙句の果てに自分の手首を噛み千切ろうとしたのでやむなく鳩尾にこぶしを入れ気絶させたのだ。身元も分からない少年を放っていくわけにもいかず、そのまま本部へと担ぎ込んだ次第だ。

数日後、少年が目を覚ましたという知らせを受け医務室に向かったクザンは、彼の様子に思わず顔を顰めた。日光を怖がってしまう彼のためにカーテンを二重に閉ざした薄暗い室内の、ベッド脇の小さな机の下に少年は息をつめて潜り込んでいた。窮屈そうに体を押し込め、目だけがぎらぎらと光りクザンの動向を探っている。

「狭い場所でないと安心しないのか、あの場所から動かないんです」

痛ましい様子に唖然とするクザンに、軍医が説明をする。二人の様子を探りながらも、けして目線は合わせない少年の手首には血のにじんだ真新しい包帯と自殺防止の拘束具がはめられている。目を覚ましてからも、水も食事もとらないという。
軍医に席を外してもらうと、クザンはぺたりと地面に座り込み少年と視線が合うくらいまでその大きな体を屈めた。距離を縮めようとすると少年の肩が大きく跳ねたので、そのまま話しかけることにする。

「目を、覚ましたんだな」

クザンはできるだけ静かに、ゆっくりと優しい声を紡ぐ。少年は体を小さく震わせたままだ。

「ここは海軍本部だ。……アー、なんだ、その……海軍ってわかるか?」
「……」
「まー俺もうまく説明できねェけど、アレだよアレ。……まあいいか」

上手な説明が思いつかずに唸りだすクザンの様子に、少年は思わず目線をあげた。目が合ってほっとしたクザンは、一番伝えたかったことだけを口にした。

「もう大丈夫だ。俺はお前の味方だ」

少年はその言葉を聞いた後も決してクザンから目を逸らさず、彼をじっと見つめ続けていた。
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