ひざまずいて、足をお舐め2






「おい」

涼やかな声が響くのと、ドフラミンゴの背中に衝撃が走るのはほぼ同時であった。ドフラミンゴが期待に満ちた目で振り向くと案の定、予想通りの人物が冷ややかな瞳をこちらに向けている。

「……フフフ、俺を足蹴にして生きている奴なんざ、お前とおつるさんくらいのもんだ。なァ、ヤコウ」
「こんな屈辱的な格好で笑っていられる変態も貴様くらいのものだろう」

そうか?ヤコウになら皆喜んで蹴ってもらいたいんじゃないのか?ドフラミンゴが軽口を叩くと、背中にかかる重さがみしみしと増していく。
開きっぱなしのドアの向こうには二人のやり取りを目撃して青ざめて震えている海兵が見える。あれが普通の反応だ。七武海の、それもその中でもとびきり凶悪な部類に入るドフラミンゴを罵り、まして足蹴にするものなど海軍には数えるほどしかいないであろう。

ドフラミンゴの背中を蹴り付けている男、ヤコウは海軍本部の少将だ。ワノ国出身だという彼は祖国同様閉鎖的な性格で、普段は同期だという青雉クザン以外とはほとんど関わりを持たない。
実際、ヤコウが七武海の面々と初めて顔を合わせたときも「この度、あなた方のお目付け役となった海軍本部少将ヤコウだ」の一言以外はだんまりで、綺麗な面をした以外はつまらない男だとドフラミンゴも思った。しかし、それは全くの思い違いであったと彼はすぐに知ることとなる。

「貴様、今が何時か分かっているか?」
「あァ?何時だったかなァ」
「ほう、時計も読めないか。前々からフラミンゴに似ているとは思っていたが、頭まで鳥のそれと一緒なのだな」
「オーオーひどい言われようだ」
「会議には出席しろとあれほど言ったであろう」

私がつる参謀に叱られるのだぞ、とヤコウはため息をつきながらようやくその長く伸びた脚を床に下ろした。
ドフラミンゴがちらりと壁に掛けられた時計を見ると、七武海の定例会議の開始時刻からきっかり十分過ぎた頃だ。ヤコウは恐ろしく真面目で時間に正確な男なので、こうやって自分に用意された部屋まで迎えに来ることも計算のうちだった。お気に入りのつるを困らせてしまうのは少々申し訳ない気もするが、ドフラミンゴはそのことを差し置いても、彼―…ヤコウがこうやって自分を迎えに来てくれることを密かに楽しみにしていた。

「あー悪ィな、読書していて気付かなかったぜ」
「ほう。頭が空っぽだからさぞ詰め込みやすかろうな」
「フッフッフッ。なんなら、お前が知らないようなことも教えてやろうか?体で」
「ドフラミンゴ」

ヤコウは、吐き捨てるように言うと、ドフラミンゴの胸倉をぐいと掴み挙げた。普段は貴様、とかお前、しか呼ばない彼が紡いだ自分の名前のぞんざいな響きに、ドフラミンゴはぞくりと鳥肌をたてる。

「貴様の戯言に付き合っている暇はないのだ。5秒で部屋から出ろ」

この冷たい瞳がたまらない、そうドフラミンゴは思った。目の前の自分が七武海だという敬いや怯えがまったく感じられない、それがいいのだと。彼のまっすぐな瞳の前では、ドフラミンゴはただのつまらない一人の男になってしまう。
――もっと自分の心に容赦なく爪を立てて、この内側を暴いてほしいと、劣情を催したドフラミンゴは小さく体を震わせた。

「……あのつまらない会議に出てメリットはあるか?」
「そうだな……最後まで良い子にしていれば褒美をやらんでもない」
「へェ?」

ドフラミンゴの胸倉を掴んだまま、くいと口端だけ上げるヤコウの顔はとんでもなく美しい。
しかし、彼の言う褒美は一般的は仕置きとよばれるものではないだろうか、そう考えながらもドフラミンゴはその褒美の内容を知るためにようやく重い腰をあげたのだった。

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