What a day! (サッチ視点)





畜生、なんて日だ。

白ひげ海賊団はマリンフォードに程近い島に到着し、初日の自由行動は俺ら四番隊に割り当てられた。先日手に入れたベリーで重たくなった財布を持って街に下りると、早々に婀娜めいたお姉ちゃんに声を掛けられる。そこまでは俺は、今日が最高の一日になると確信していた。
ただそこから先が良くなかった。色気たっぷりの女はいわゆる美人局というやつで、しかも男が出てくるだけなら対処のしようもあるが、よりによって小さな子供まで飛び出してきたのだ。舌足らずな口調で「ママとパパをいじめないで」なんていわれてしまうと、さすがに申し訳なく財布から無造作にベリー札を置いてすたこらと逃げてきた次第である。

「…あーあ、しかしいい女だったなあ…クソ」

慌てて出てきたため乱れたままの衣服を直しながら、美女の裸体を思い出し思わずにやけるが、ふとこれからどうしようと途方に暮れてしまう。数分前までぱんぱんだった財布は俺の気持ちと一緒で見事にしぼんでいる。四番隊の誰かを見つけて金でも借りるか、と思いくるりと振り向くと後ろから歩いてきた誰かとぶつかってしまった。
「うわ」と小さな声をあげてしりもちをついた男に慌てて声を掛ける。

「ああ、悪ィ!大丈夫か」
「平気です、こっちも前よく見てなかったし」

男に手を差し伸べてぐいっと引っ張りあげる。男はありがとう、と言いながらそのまま立ち上がると服についたほこりを払って、こちらに向かってにこりと笑いかける。人好きのする顔だ。身長はわりかしあるが体が薄いので俺たちみたいなならず者や海兵などではなさそうだ。おそらく街の住民だろう。
ひらひらと片手を振ってその場を立ち去ろうとする俺を、男が制止した。

「あ!ちょっと待って」

男はそう言いながら腰に巻いた皮のケースから何かを取りだす仕草をする。銃かナイフか、と思わず俺は身構えたが、右手に握られていたのはおよそ殺傷とは縁遠いものだった。

「……鏡?」
「うん。ほら、髪の毛乱れてる。すぐ終わるから直させて」

そう言って手鏡で見せてくれた俺の髪の毛は確かにひどいもんだった。朝早く起きてきちんとセットした自慢のリーゼントは見事に崩れて後れ毛がそこここに飛び出している。色男が台無しだ。
男は、俺に近くのベンチに腰掛けるように促すと、その隣に座り櫛とワックスも取り出す。そのまま馴れた手つきで櫛で俺の髪をなで付けていく。ワックスの良い匂いがふわりと鼻をくすぐった。

「はい、おまちどうさま」

手を止めると、男が手鏡を見せてくれる。あっという間に元以上に素晴らしい出来になっていて俺は目を見開いた。

「おお!すげェ!ありがとな」
「ううん、気にしないで。せっかく男前なんだから」

そう言って微笑んだ男に、不覚にもきゅんとしてしまった。いや、おかしいだろ俺。
電伝虫もビブルカードも持っていないという男はヤコウとだけ名乗って去っていってしまった。





「……思わず俺のビブルカードと電伝虫の番号押し付けちまったけど今考えるとちょっと気持ち悪ィかな……いや待てよ、ここの街の住民なら明日探せば会えるんじゃないか?そのときに飲みにでも誘って…誘う?いやいやただお礼をしたいだけであってそれ以上の意味はないからな」
「マルコー、サッチが気持ち悪ィ。ずっとぶつぶつ言ってる」
「気持ち悪ィのはいつものことだよい」
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