とこやさんと天夜叉





「フフフ!お前が噂の理容師か」

大きな体を折り曲げるようにしてのそりとドアから入ってきた毒々しいショッキングピンクの塊に、俺は「わあ」と小さな声を上げた。
ドフラミンゴだ、まさにいま本誌でルフィたちと戦ってる巨悪じゃん。すげえでかい。あと奇抜な色合いに目がちかちかする。

「いらっしゃいませー」

俺はいつも通り営業スマイルで、ドフラミンゴを奥の席へと案内する。海軍本部ともなると常人よりも遥かに身の丈が大きい人も少なくないので、室内には一般用の席と特注の大きな席が用意してある。
それにしても、『噂の』か。いったいどんな噂なんだろう。

「どのようにいたしましょう?」
「あ?任せる」
「かしこまりましたー。サングラス外しますねー」

お任せの言葉を聞き、俺はドフラミンゴのサングラスを外すと、肌の乾燥具合を見るため輪郭を指先でするりと撫でる。それがくすぐったかったのか彼の体は少しだけ震えた。
タオルスチーマーから蒸しタオルを取り出すと、リンゴにも似たカモミールの香りがふわんと鼻をくすぐる。同じようなハーブがこの世界にもあって助かった。

「蒸しタオルを載せますので目を閉じてくださいね〜」

ばふばふとタオルの荒熱を取りながら声を掛けると、その言葉に大人しく目を閉じるドフラミンゴが、少しかわいらしいと思ったのは内緒だ。





「お疲れ様でしたあ!シェービング終了です」

目を閉じたままのドフラミンゴに声を掛けると彼はばちりと目を開き、なんだか気まずそうな目線を俺によこした。どうやらまどろんでいたようだ。以前、スモーカーも寝てしまっていたし、ワンピ界でも蒸しタオル→あったかいホイップクリーム→シェービングコンボの効果は抜群らしい。その気持ちわかります。

「余分な角質も落としたので、今日はこちらの保湿液をたっぷりつけてお休みになってくださいね」

そう言いながらドフラミンゴの手のひらに落とした小さな瓶の中身は、俺お手製の化粧水だ。ドフラミンゴの肌は少し乾燥気味だったので、後で湿疹などの肌トラブルが起きないようにこれで保湿をするよう説明をする。一流の理容師はアフターサービスも万全なのだ。
彼は長い指で小瓶を摘み上げ、いぶかしげにそれを見やる。だが、蓋を開けてくん、と臭いを嗅ぐと黙ってポケットに仕舞い込んだ。毒などではないと理解してくれたようだ。ていうかこんな怖い人に毒を盛るなんて大それたこと俺には出来ませんから。

ドフラミンゴは懐に小瓶を仕舞うと、ちらりと俺のほうを見やった。

「……お前、名前は」
「ヤコウと言います」
「フフフフ。ヤコウ、また来る」

その言葉とともに、カウンターにどさりと札束が置かれた。その気前の良さに俺はますます笑顔になる。

「ありがとうございます〜!」

よっしゃ、上客ゲットだぜ。芸は身を助けると言うが、資格取っといて本当によかった。天国の親父、俺は新天地で一生懸命頑張ってます。
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