とこやさんと鷹の目




びっくりした。客を送り出して、少しのんびりしようと、んん、と伸びをしながらふと横を見たらいつの間にか人が立っていた。

「うおっ!えっ!あ!いらっしゃいませ?!」
「邪魔する」

盛大に驚きながらもとりあえず接客に取り掛かる俺のことなんて全く気にしないうえに、気配を消していたことなんてちっとも悪びれないその男は、我輩はミホークという。なんて暢気に自己紹介もしてくれた。うん、知ってる。ゾロの永遠のライバルにして師匠の人だ。リアルで見ると目力半端ない。とりあえず俺も自己紹介を返すことにしてみた。

「あ、おれはヤコウと言います」
「ああ、お前がヤコウか。最近青雉がお前にご執心だと聞いてな。どのようなものか試しに来たのだ」
「そうなんですか?ありがとうございます!」

国語の弱い俺にはゴシュウシンの意味がわからないが、入口に立たせたままも悪いので席へと誘導すると、着席したミホークが鏡ごしに少し口角を上げ微笑んでみせた。目は怖いけどいい人みたいだ。目は怖いけど。シェービングの注文を貰い、カップに粉石鹸を入れて熱湯を注ぎ軽く泡立てる。引き出しからレザーを取り出すと、ミホークが少し目を見開いた。

「む、いい剃刀だな。」
「あ、わかります?おれの自慢の仕事道具です」

自分の道具をほめられて思わず頬が緩んでしまう。今の理容師は替刃のカミソリがほとんどだけど、俺は親父の形見でもある外国産の老舗レザーや日本剃刀を愛用していた。はじめはうまく研げなくて毎日苦戦していたけど、今は思い通りに動いてくれる大切な相棒だ。
剃刀を見てわずかながらテンションのあがったミホークに、剃刀を並べてみせる。これがレザー、ベタ、つらゆき…一つ一つ特徴を説明しながら作業台の上に広げていくと、ミホークは明らかにそわそわし始めた。なんてわかりやすいんだ。

「触っても?」
「どうぞどうぞ」

作業台に置いてある中から、ミホークに日本剃刀を手渡すと彼はしげしげと眺め始めた。指先にひたりと刃を当て、吸いつきを確認すると小さなため息を零す。

「……素晴らしい刃だな」
「!…ありがとうございます!!」

頑固で職人気質だった親父は、玉鋼で作られたこの剃刀を特に大切に使っていた。そんな親父が遺した仕事道具を褒められると、まるで親父自身も褒められているようで嬉しくなってしまう。

「刀を扱う方にそう言ってもらえて光栄です!一応、親父の形見なので」
「なんと…」

あれ。「その若さで父の遺志を継ぐか、ヤコウよ」とか言われて、ついでに頭までなでられてしまった。遺志なんてだいそれたものではないし、第一頭をなでられてしまうほど俺って童顔なんだろうか?ちょっとショックだが、外国人にとって日本人は皆幼く見える、というのは本当なのかもしれない。まあワンピース界を外国のくくりにしていいのかは謎だが。

剃刀談義に花を咲かせているうちに、先ほど用意した泡はすっかりへたってしまった。俺は新しい泡を作ろうと、まだじっと剃刀を眺めるミホークに必死に笑いを堪えながらもお湯を沸かしにシンクへ向かった。





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