誰かの願いはかなわない(エース)
あの時、流れ星を探すふりをしながら本当はずっと、その横顔を盗み見ていた。短く綺麗にそろったまつ毛、日に焼けた肌に星のように散る雀斑や、輪郭まで忘れないように。
エースが急にこちらを振り向いたので、俺は慌てて星を見詰める作業に戻った。
「ヤコウ!願い事何にした?」
その無邪気な笑顔に胸がぎゅっと苦しくなる。
「エースは?」
できるだけ、何でもないように口に出すと、俺はねえ。と言いながらエースは楼台にごろりと横たわると願い事を次々と口にした。
「毎日美味い飯が食えますように!あと、マルコに怒られませんように…あと!美味い酒がいっぱい飲めますように!」
「はは、食うことばっか。強くなりたい!とかじゃないんだ?」
「自分で叶えることなんだから、神頼みなんてしないさ」
満面の笑みが途端に真面目な表情に代わり、俺は星を眺めることもすっかり忘れて彼に集中してしまう。
「海賊王になったオヤジと同じ景色を見たい。そのために、もっと、もっと、強くなりたい」
驚くほど静かなのに強く響く声。これは願い事ではなく、決意だ。
俺はどうしようもなくて、途方に暮れてしまう。するとエースが俺の情けない表情を見て、なんて顔してんだ、と俺の手を掴んでそのまま引っ張るので、バランスを崩した俺はまんまと彼の腕の中に収まってしまった。
「…あとは、ヤコウとずっとこうしていたい」
そういう彼の声は照れ隠しなのかぶっきらぼうで、とても愛おしい。それが、とても悲しい。
「ヤコウは?」
「…きっと、俺の一番の願いは叶わないよ」
ああ、神様。願い事なら一つだけだ。
どうか、一秒でも長く、こいつと。
***
知識有りトリップ主とエース。
ある日起きたら白ひげ海賊団でした。まあ当然船員に殺されそうになるんだけどエースがかばってくれて親父の息子にというトリップ黄金パターン。
ワンピースの漫画は単行本全部持ってるしエースが死ぬことももちろん知っていて何とか歴史を変えようと努力するんだけど、一度は流れが変わってもまた別の事象で足し引きされ結局元の大流に戻ってしまう。
そのことに気付き絶望する主と、いつも何かに一生懸命なのにどことなく悲しそうな目をしている主に恋をするエース。
この世界ではもう報われないから最終的に現実世界にエースごと引っ張ってくことになりそう。
***
「これから行く場所は、この世界とは違う」
「そこにお前が見たい景色はきっとない。でも俺は、それでも、お前を攫っていきたい。お前と共にいきたい」
「でも、ヤコウはいるんだろ?」
「ヤコウなら、いいよ。攫ってくれよ、俺のこと」