ひざまずいて、足をお舐め(海軍)
「それでは、私はこれで失礼致します」
報告を終えセンゴクに頭を下げると、後ろに一つに束ねた濡れ羽色の長い髪が、するりと背中をすべり落ちる。まるで舞のような優美さに側近の海兵は頬を染めた。その表情をちらりと一瞥し、緑の黒髪の持ち主であるヤコウは形の良い唇を開く。が、
「どうした?はしたない顔をして。私に罵ってもらう妄想でもしながら、床でその粗末なものでも弄ぶのか?家畜以下だな」
ヤコウの口から飛び出したのは美しい顔に全くそぐわない下卑た言葉で、しかしその絶対零度の声を聴いた海兵は羞恥と歓びの入り混じった顔でその体をふるりと震わせた。
ぱたん、と扉が閉まる。
「……っあーーーーー!!!!なぜ私はまたこのようなことを……」
そう呟いて自己嫌悪でしゃがみ込んだのは、先程海兵を罵っていたヤコウ本人である。その横で大きな体をくつくつと震わせ笑いをこらえる男の脛に、ヤコウは渾身の蹴りを入れた。
「…ったァ…くっくっ…」
泣き所を蹴られたクザンは顔をしかめるものの、なかなか笑いが収まらないらしくまた小刻みに肩を揺らし、それを見てヤコウはさらに不機嫌になる。
「相変わらず口汚いよねぇ…」
「笑い事ではない!大体クザン、元を正せば貴様のせいではないか!!」
つかつかと、怒りに任せているためか少し歩みが早いヤコウに、足並みを揃えてクザンが隣を歩く。
その様子を遠目から目撃した海兵の「ヤコウがクザンを足蹴にし罵っていた」という証言により、またしても噂は悪い方向に膨らんでいくことをヤコウはまだ知らない。
***
海軍本部、階級は少将の主人公。クザンとは同期に当たる。
国交が閉鎖的だというワノ国出身のためか、海兵時代からクザン以外にはその内を見せなかった。さらに人見知りするためか、慣れない人に対しては当たりが随分ときついヤコウの、その性分に関しては噂がどんどん一人歩きする。
飲み会で「あの人本当はドSなんじゃね?」と言う質問にクザンが冗談で「ほんと鬼畜ドSで大変よ。あの綺麗な顔でバリタチだし」とか言っちゃったもんだからそれが一気に海軍中に広まっちゃってたいへーん☆
ヤコウも不名誉な噂を払拭しようと努力するんだけど口の悪さが災いし、どんどんドS認定されていく。
ワンピ界ってすごいハードな訓練こなして自分の体を苛め抜く奴らばっかりだから、絶対潜在的にドMな人が多いと思うんですよね…
ヤコウのきっつい言葉にどきどきしちゃうサカズキとか、長く美しい脚に踏まれたくてわざと会議欠席するドフラミンゴとか、ヤコウに罵られたくて興味本位でちょっかい出しに行く赤髪とかね。