とこやさんと白猟





「邪魔する」


そう、唸るような声を出してドアを開けた男の顔はやけに見覚えがあった。ええと、名前は確か。


「スモーカー君!きちんと綺麗にしてもらってね。小汚い男と並んで座るなんてヒナ不快」


おお、そうだ。スモーカーだ。ルフィを追い続けるアウトローな人だ。嫌がる彼を店にぐいぐい押し込むヒナ嬢の言葉で名前を思い出す。ついでにリアルヒナ嬢まじ美人。たしぎちゃんがいないのが少し残念だ。
でも、俺が名前を思い出せないのも仕方がないと思う。それくらいに、目の前のスモーカーはよれよれだった。生やしっぱなしの無精ひげに、髪の毛は伸びきったものを乱暴に撫で付けてるだけだ。せっかくの男前が台無しだ。まあこれはこれでワイルドでかっこいいけど。


「店員さん。この汚いの、四十分後に迎えに来るからお願いね」
「あ、はい!かしこまりました」


ヒナは俺にスモーカーを押し付けるようにすると、足早に去っていった。やはり自分の隊を持つ立場は相当忙しいんだろうか。その割にクザンさんは暇そうだけどなあ。そんなことを考えながら、汚い物扱いされてぶすりとしたスモーカーを席に誘導する。


「いかがいたしましょうか」
「さっきの女が言ったとおり、次の予定まであまり時間がねェ。出来る範囲で適当にやってくれ」
「かしこまりました」


これだけ汚…もとい、やりがいがある姿だと腕が鳴るなあ。まずは髭を整えようと、蒸しタオルを広げた。









「スモーカーさーん?」
「……あァ?」
「お休みのところ申し訳ございません。あの、一通り終わりましたので仕上がりをご確認ください」


俺の呼びかけでようやく覚醒したのか、スモーカーはぎしりと体が鳴るぐらい伸びをする。そのまま緩慢な動きで目の前の鏡に向けたその目はまだ少し眠そうだったが、自分の姿を確認すると、ぱちりと瞬きをした。


「……だいぶすっきりしたな」
「すみません……何度か起こしたのですが」


スモーカーはよほど疲れていたのか、シェービング中にすやすやと寝息を立て始めてしまった。声をかけても起きず、乱暴にゆり起こすわけにもいかないのでそのままカットもしてしまった。お任せをいいことに好き勝手にやってしまったけど、大丈夫だろうか。


「サイドをツーブロックにしたので、スタイリングしやすいと思いますよ」


そう言いながらバックミラーを彼に向ける。サイドの毛量をだいぶ減らして、あとはトップを軽く撫で付けるだけで楽にスタイリングができるように試みた。整髪剤がなくても簡単にセットできるので、長期間の任務が多そうな彼にはぴったりだと思う。俺の説明を黙って聞いていたスモーカーに、駄目もとでもう一つ提案をしてみる。


「襟足、もう少し短くするとさらにお手入れが楽になりますが、いかがしましょう?」
「……テメェに任せる」
「!ありがとうございまーす」


どうやら不満はないらしい。良かった。

出来上がりを見たヒナ嬢に「あら、男前。ヤコウ君すごいのね。ヒナ感心」と見惚れてしまうような笑顔を向けられ、女性用のフェイシャルも始めようと思うので是非!とうっかり口走ってしまった俺は悪くないと思う。美女まじ目の保養。
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