嫌いな人がいる。

(あ、睨んでる)

ふとした瞬間に私を睨む、あの目が嫌い。きらきら光って目に入る、あの銀色の髪が嫌い。女子に騒ぎ立てられる程格好いい、あの顔立ちが嫌い。中学生男子にしては高い、あの背丈が嫌い。耳に嫌というほど響く、あの声が嫌い。

(好きなとこ、一個もないなぁ)

初めて彼と出会ったのは入学式だった。クラスが同じで、出席番号が前後だった。ニヤニヤ笑っていたかと思えば、澄ました顔をして先生の話を聞き流していた。言葉も交わしていなかったけれど、直感的に私はこの人が嫌いだと確信してしまったのだ。

「七摘って仁王と仲悪ぃの?」
「……仲が悪い、とはまた違うと思うんだよね」
「仲良しっていったら仲良しよね」
「はぁ? どっちだよぃ」
「そういう次元の話じゃないのよ。ねぇ、水祈?」

丸井くんが首を傾げる隣で、恵理が意地悪そうに笑った。そうだね、仲が良いとか悪いとかの話じゃないと思う。思うけど、どう形容していいのか分からない。

「ハッキリしねーなー」
「丸井ぃぃいい! またアタシのお菓子勝手に食べたでしょ!」
「机の上に置いてあるのがいけねぇんだろぃ!」
「人の物勝手に食べる神経疑うわ!」
「菓子が俺に食って欲しがってたんだよぃ」
「言い訳もそこまでくると感心するわね」
「本当だよ! アタシのトッポがぁぁ……」
「十時さん、トッポじゃないけどポッキーなら私持ってるよ」
「ありがとう七摘さん……七摘さんを見習えデブン太」
「誰がデブン太だコラ」

丸井くんと十時さんのいつも通りの諍いが目の前で繰り広げられる。微笑ましいなぁ、なんて思って、そしてふっと彼と目が合った。あ、と思った時にはもう遅く、彼はにたりと笑ってこちらに近付いてきた。相変わらず、性質の悪い男だ。私が嫌がることを熟知している。まぁ、それはこちらも同じなんだけれど。

「俺にもポッキー」
「ちょっとコレは七摘さんから貰ったやつなんだけど! 来んな仁王!」
「減るもんじゃなか」
「減るわ! ポッキーは減るわ!」
「そうね、ポッキーは減るわ。けど私も1本欲しい」
「恵理はいいよ! あげる!」
「ひいきじゃ」
「ずりーぞ片平!」
「のう、七摘?」
「……もう1袋あるから、そっちを皆で分けようよ、ね?」

ほんと、なんでいちいち十時さんから嫌われるようなことばっかりするのかな。好きな子ほどなんとやらと言うけど、彼はわざと嫌われようとしている風で。何、私に対するあてつけか何かなのかな。ああ、腹が立つなぁ。はらわたが煮えくりかえりそう。うん、やっぱり好きとか嫌いとか、そんな次元の話じゃない。これは、

「七摘は優しいのう」

これは、憎悪だ。


嫌いを裏返しても嫌い
(好きとは平行で対極位置にいる嫌いな人)


***
水祈さんは仁王くんが憎たらしいんです。嫌いは嫌いです。
でも嫌いあってるから、お互いを殺す術も救う術も知っているんです。

title:約30の嘘


 



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