あたしと水祈せんぱいと、それからジャッカルせんぱいの話をしよう。あたしたちが出会ったのは特にこれといったこともない、本当になんでもないことだった。たまたま一緒の委員会で、そしてたまたま一緒の日が当番で、加えてたまたまあたしのクラスの委員会が一緒の子が当番の日に休んでしまったのだ。言ってしまえば、偶然の重なりだったのだ。

「今日は、もう1人の子は一緒じゃないの?」
「え」

抱えたジョウロが少し傾いて地面に小さな水溜りを作った。え、どうして、え、なんで。七摘水祈せんぱいは可愛くて優しくて頭が良くて、とても人目を引く人だった。きらきらと眩しいその人に近付くことは、なんだかあたしが後輩なこともあって許されないような気がしていたのだ。人見知りなわけじゃないけど、何故だか話すことが億劫だった。

「風邪で、お休みなんです」
「そうなんだ。1人は大変だよね、私も手伝うよ」
「え、大丈夫です!」
「でも、まだ飼育小屋の方も残ってるよね?」
「それは、その……」
「遠慮しなくて良いんだよ」

伸ばされた手はくしゃりとあたしの頭を撫でていった。優しい手つきだ。この人は、本当に優しい人だ。

「七摘、どうしたんだ?」
「ジャッカルくん、この子今日1人なんだって」
「は、マジかよ。お前1人なら遠慮しねーで言えって!」
「ええええ」
「で、どこが残ってるんだよ?」
「とりあえず飼育小屋かな」
「飼育小屋な」

目の前でどんどんと進んでいく会話に追いつけない。ぽかんと固まったあたしにジャッカルせんぱいは優しく笑った。そして水祈せんぱいと同じように頭を撫でられた。少し乱暴な手つきだったけれど、それでも優しかった。

「早く終わったら花壇の方も手伝うね」

優しい優しい2人のせんぱいの後ろ姿を見送りながら考える。遠慮はしなくていいと、手伝うからと、優しく頭を撫でてくれたせんぱい達は、なんだか、

(お兄ちゃんとお姉ちゃんみたいだなぁ)

兄弟はいないから分からないけれど。でも、いいなぁ、と。せんぱい達の存在は確かにあたしの中で、しっかりと温かみを残していった。



「まなが頼ってくれるようになったのは嬉しいことだよね」
「だな」
「遠慮してたもんね」
「1人で背負いこもうとしてたからなぁ」
「妹ってこんな感じかな?」
「大体な。まなのがタチ悪いぜ」
「じゃあジャッカルくんの妹さんはとっても素直なんだね」
「……それ、あたしの前で言うことじゃないと思いまーす!」
「おかえりなさい」
「ただいまです! 購買行って参りましたー!」
「サンキュー。ほら、座れ座れ」
「いいこいいこ」
「きゃー! 髪がボサボサになりますってばー!」
「まなは1年の頃から可愛いね」
「褒められた!」
「髪ボサボサになってるぞ」
「水祈せんぱいのせいですよ!」
「大丈夫だよ、直してあげるね」
「えへへー」
「飯食おうぜ。時間なくなっちまうぞ」
「食べます! あたしのメロンパンっ」
「……本当に、まなは可愛いよね」
「だな」
「褒めましたね!」
「いいこいいこー」
「せっかく直して貰ったのに!」
「手のかかる妹さんだね」
「世話の焼きがいがあるな」
「……褒められ、た?」


記憶経由の幻
(頭を撫でてもらうのは嫌いじゃないんだよ)


***
24話の補完というか3人のおはなしです。生物委員繋がりです。
3年2人はまなを妹みたいに思ってて、まなも2人を兄や姉みたいに思ってる。そんな3人組。

title:約30の嘘


 



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -