×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



  あなたがくれたもの



「キャプテンは、クリスマスって知ってる?」
「……あ?」

馬鹿にしてんのか
と口走りそうになる。

「じゃあ、サンタさんは?」
「…何言ってやがる」
「あ、麦わらの一味にチョッパーくんがいるから、トナカイは知ってるか」

何を言いたいのかわからねェが、ブツブツと指を折りながら考え込む女を見据える。全く俺の話を聞きもしねェニナを読んでいた本でばふんと叩く。「あいた」と間抜けな声を挙げてからニナの赤く大きな目がようやく合って、俺はもう一度ニナに問いかけた。

「何が言いたい」
「私、絵本でしか見たことないからさ」
「…サンタクロースをか」
「うん。ほんとにいるの?」

キラキラとした無邪気な笑顔が、痛い。「確かこんなのだったよ」と、下手くそに描かれた白い髭の老人の絵を見せてくる。…子どもをもつ親ってのは、きっとこういうなんとも言えねェ気持ちなのかもしれないが、俺はそんなに健気じゃねェ。

「さァな」
「えー!何それ!」
「ベポにでも聞いてみろ」
「むう」

俺の返事に納得がいかないようで、ぷ、と頬を膨らませるニナは、歳よりも幼く見える。まァ実際、精神年齢はどう考えても幼いだろうが。
ニナは最近この船に乗せた女。とある冬島で高熱と凍傷で半分死にかけのところを、ベポが拾ってきた。(ベポの頼みだから仕方ねェ)飯もろくに食っていないだろう細い体と、アルビノの髪、瞳。荒れた島と目立つ見た目。そんな中、1人で暮らしてきたというだけあって、刀1本ありゃ戦うことができる。アルビノというのは、世の中じゃァ難病の1つとされるもの。俺の興味を引くには十分だったのだ。

そんなことを考えていると、ふとニナが立ち上がって拗ねた顔のままずんずんと俺の前を去っていった。まあ、ベポの所にでも行くのだろう。俺はため息をついて、もう一度さっきまで読んでいた"アルビノ"について書かれた本を開く。アイツは、字がほとんどわからないらしいから、この本がなんの本がなんて知ったこっちゃねェだろうが。
治せる病気じゃねェが、命を預かる俺としては何も知らねェままこの船にいさせるわけにはいかないという、医者としてのプライドがあった。
この船の船長として。






「キャプテン!敵襲だ!」

伝声管から聞こえてきたシャチの声に俺は徐に立ち上がる。伝声管を引っ張り、舵はそのままに敵を迎え撃つ指示をしてから甲板へ足を運ぶ。他の奴らでも十分対応できる連中だからこそ、俺は急ぐわけでもなく甲板へ向かっていた。

「ニナッ」

ペンギンの一声が耳に届くまでは。
急に焦りを感じた俺は、急いで甲板の扉を開く。そこには敵の返り血か、彼女の血か分からないが白い頬や髪が赤く染まっているニナの姿があった。それでも刀を片手にしなやかに立つ彼女に、俺は思わず見惚れていた。

「大丈夫。ちょっと、壊してくる」

ペンギンの声に答えたニナは、1人残った敵の襟元を引きずって海へと叩き落とした。敵が一掃された甲板は静寂に包まれる。真っ青な月を背後にして、船首に凛と立つニナを綺麗だと思った。
ただ、それが崩れるのを見逃さなかった俺は、急いでルームを広げ、シャンブルズでニナを腕の中に収める。血を流しているからか、月の光のせいか、いつもより青く見えるニナの頬がぴくりと動いて赤い瞳が俺を捉える。

「は、れ……?キャプテン」
「もう少し考えて行動しろ」
「だって」
「お前は血が止まりにくい症状がある。下手なことをして死んだら許さねェぞ」

俺の言葉にあまりにキョトンとした顔をされて、逆に羞恥心が襲った。それを隠すようにとりあえず後始末をペンギンたちに任せ、処置室へをニナ運んでいく。

「……キャプテンは」

ようやく喋りだしたかと目線を落とすと、真っ赤な瞳から大粒の涙がボロボロと零れていて、俺は柄にもなく焦った。ただニナは、そのまま俺に擦り寄ってそのまま涙を流し続ける。

「キャプテンは、私を見捨てないの」
「あ?」

咄嗟にそんな短い返答をしたけれど、俺には何となくニナのいう意味が分かっていた。
"困難な症例" "救助は不可能" "感染の可能性"…。まともに診察も、学習もしねェ癖、「医者」という名ばかりの立場に立つ奴らは、そうほざいて"俺たち"を見捨てる。…俺がそうだったように。

「ここを誰の船だと思ってる」

ボロボロと零れ続ける涙が、頬の返り血を洗い流していく。何故か、先程まで垂れ流しだったニナの血が自然と止まり始めている。それもあって、少し顔色が戻り始めたニナが、涙に濡れた瞳で俺を見上げて微笑んだ。

「キャプテンは、…私のサンタさんだね」
「…そうかよ」
「ふふ、うん」

俺とお前は、きっと同じ境遇"だった"。それはもう過去だ。これからは、俺と同じように、生きていく。
自由に。お前らしく。







あなたがくれたもの







私の居場所


prev 

[back]