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  ラビアンローズ



「は〜あ」
「なんじゃァ。でかいため息なんぞついて。似合わんぞ」


私にだってため息が出るような悩みがあるんですぅ、と馬鹿にしてきたカクに木材を投げつけてやる。「怪我したらどうしてくれるんじゃ!」とかギャーピー言ってるのなんて知らない。

今日も船の修理を黙々と進める私たちは、ウォーターセブンのガレーラカンパニーの一員だ。今日もとある海賊船を修繕しているところだけど…私にはそれどころではない。


「サボってないで仕事しろッポー」
「!!!!ルッチ!」


悩みの種はこの人だ。
…今日もかっこよすぎる。(ハットリはかわいい)
黒いハットからこぼれるウェーブがかった長い髪が色っぽいし、鋭い目も撃ち抜かれそう。なんだかよくわかんない眉毛とひげすら素敵すぎる。
吸い寄せられるように両手を広げてルッチに近づこうとするが、長くて筋肉質な彼の手にさえぎられた。


「いぃい痛い痛い!!!ルッチいたい!」

「うるせェぞド変態。人のことばっか見てねェでてめぇの仕事しろ…ッポ」


ギリギリと頭を握りつぶされそうで、さすがの私も痛みに耐えられず、抱き付こうとした体を理性で引き留める。
くう…頭をやわくなでられているハットリがうらやましい…。

その様子をドン引きした目で見つめていたカクだったが、関わらん方がいいぞ、と心配で私たちを見に来た他の職人に声をかけて裏へと姿を消していった。


「ねールッチ。どうしたらルッチは抱きしめてくれる?」
「…いい加減にしろッポ…。」

呆れてしまったのか、深い溜息を一つハットリとこぼしてルッチも行ってしまった。追いかけようとしたが、来るなと一喝されたので、おとなしく足を止めた。
どうしたら私のルッチへの気持ちが伝わるのか…

私の一番の悩みなのだ。









「ブルーノぉ…カリファ聞いてよ〜」
「あらニナ。今日もルッチの話?」
「いい加減あきらめたるのが先決だと思うがな」

ニコニコと話を受け入れてくれるカリファと、カクやルッチ本人のように呆れた顔のブルーノ。
あきらめるなんて、無理な話だ。


「今日もね、あっという間に仕事終わらせてて。あ、もちろん適当じゃないんだよ。いつも完璧なの。」
「フフフ…アイスバーグさんの顔を背負っているんですもの、それくらいしてもらわなきゃいけないわ。」


仕事の姿はいつだって素敵。
ただ、理由はもちろんそれだけじゃないんだ。

「助けてくれたんだもん…ルッチは」
「まーたその話かよ」
「うるさいバカウリー」
「誰がバカウリーだッ!!」

途中から話に混ざり込んできたパウリーを横目に、どうしても、何回話しても話足りないルッチの話を続ける。
ガレーラカンパニーにやってくるのは多くは海賊。もちろん、いいやつばっかりじゃない。だって海賊だもん。
お金を払おうとしないやつもいる。
隙あらば、何かを盗っていこういこうとするやつもいる。


あの日、その”何か”が私になりかけたときがあった。


私だってこの職場で働いている以上、戦いもするし、負けることだってそうそうない。自分でそう思えるくらい鍛えたんだから。
ただ、男の人の力に、かなわないときがやっぱりあって。

『一人ぐれェいなくなったって、奴ら気が付きゃしねェよ』
『娼婦にはちょうどいいだろう、』

今でも頭に簡単によみがえる海賊たちの顔と声。
忘れようにも忘れることなんてできない。


「…ルッチは、私がいないことに一番に気づいて、助けてくれた」

でもそれ以上に、仕方のねェ奴だと言いながら私の涙をぬぐってくれた長い指と優しいルッチの表情が脳裏に焼き付いていて。
何も言わず、ただ抱きしめてくれたルッチの温かさを今でも求めてしまう。


「フフ…何度聞いても私は飽きない話だわ」
「ありがとうカリファ〜〜」

「…ルッチも闘っているわ、…きっとね」

私を抱きしめたカリファが、何かをボソリとつぶやいたけれど、私の耳にははっきりと届くことはなかった。





ルッチの話してたら、お酒、進みすぎたあ…。
明日の仕事に響くからと、ブルーノの酒場を一人後にする私。
水は飲んだけれど、まだしっかり回ったままのアルコールが、私の足をもつれさせる。

「おねーさん大丈夫?」

そう声をかけて私の腕を引いたのは、見たこともない若い男。
あぁ、しまったな…一人でお店を出るべきじゃなかった。

「大丈夫だから離して」
「そっか?」

私が想像したよりも、あっさりと腕を離した男の様子に少し安堵する。
めんどくさいことには、なりたくない。


「おねーさん、ガレーラカンパニーの職人さんでしょ」
「ものしりね」
「まぁね。あんな男ばっかりのとこに、こんなかわいい人いたら、気になるでしょ」

「か、わ…」


ニッコリと裏のない笑顔を向けられ、そんな言葉、随分かけてもらってきていないものだったから、くらっとした。
誰に言われようと、うれしいものだ。

「ね、ガレーラのこと聞いてみたいんだ。もう一軒俺と行かない?」

そう私の手を引く男に、まぁいいか、と足を進めようとした、時だった。



「いや、俺が引き取らせてもらう…ッポ」



ぐいと反対の腕を引かれ、嗅ぎ慣れた香水の匂いと、厚い胸板を鼻で感じる。
半分ぼやけた視線を上にあげると、私の好きな、ウェーブかかった髪と、撃ち抜かれそうな鋭い瞳。
男の人は本当に他意はなかったようで、ルッチに「そうですか、すみません」と一言いって、去って行ってしまった。


「……ルッ、チ」
「バカヤロウが。何回男に連れていかれたら気が済むんだッポ」


ハットリの羽が私の頭をペチリと叩く感触。
目をつむってルッチの心臓の音に耳を傾けると、規則正しい音が聞こえる。
今の私には、ひどく、心地いい。




「…お前は、俺だけ見ていればいい」



「…ぇ」

ハットリとは違う聞きなれない低い声が上から降ってきて、もう一度目線を上に送ると、まっすぐと私を見下ろすルッチ。疑問を浮かべるよりも早く重なった唇に、私の心臓は高鳴りを増した。







ラビアンローズ








わたしには、あますぎる


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