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  23


惚けている自分が情けない。
ローの初めて見た顔に動揺して、何度もキスを受け入れてしまった私は、すっかり脳内を彼に侵略されていた。ああ、腹立たしい。
彼が去る前、もう一度囁かれた「好きだ」という言葉。…海賊が、海軍を好きになんてなるものか。海軍である私が…海賊と、なんて。
有り得てはいけない。

「…はあ」
「ニナ少佐、そろそろ着きます」
「ん、わかった」

部下からの一言で脳内を切り替えた。
センゴクさんと青キジさん、2人からの命でやってきたこの島には…黒ひげ海賊団がいるという。私の仕事はもちろん、海賊たちを捕まえること、…ではない。私の力では、殺されるのがオチだ。私は、彼らが、ここでなにをしているかを調べて本部に伝えること。
ふう、とひとつ緊張から出る息を吐いて島を見据えた。

海軍の船を目立たない岸辺に停泊させた。1度部屋に戻り制服から着替えをする。仕事のため、一般人を装う為の服。…青キジさんが用意してくれたもの。夏島であるこの島の気候にあった半袖シャツに長めのプリーツスカート。(青キジさん、こういう人が好きなのかな…)
周囲を見渡すと、近くに変わった小舟が泊まっていて、見覚えがあるようや気もしたけれど、気にせず目立たないように島に上陸した。

海軍が元々話を通しておいた酒場で、私は情報を探ることになった。他の海賊も、ちらほらと酒場に現れるが…今回の目的は黒ひげ。暴れない限り…私が手を出すことはない。(常備している子電伝虫で、部下たちに連絡して捕らえてもらけれど。)

「お、おい兄ちゃん!大丈夫か!?おい!」
「何だ!?し、死んでるのか?」
「毒でも盛ったんじゃねェだろうな!」
「違ェよ!さっきまで普通に食べてたんだ!なのに急にッ」

お皿を片付けていると、お店が急にざわつき出した。マスターの大きな声が響いてる。どうしたの、とマスターのそばに駆け寄ると、顔を料理に突っ伏している、男。
その背中には大きな刺青、テンガロンハット…彼は

「………火拳、の」

「んァ?…あ”ーーよく寝た」
「「「寝てたんかいッ!!」」」

彼の周りで心配そうに声をかけたり体を揺らしたりしていた人達が呑気な彼の声にツッコんだ。そんな周囲をよそに、ぐぐっとのびをして欠伸をする彼は、…火拳の、エースだ。
こんなとこで会うと思わなかった。
そんなことに動揺して動きが止まる。そんな私に気づいた火拳と、ばちりと目が合う。

「………あれ、アンタ」
「っま、マスター!一応お医者様に診てもらってきますね!!」

服も、髪型も違うのに。
知った顔だ、とばかりに表情が変わった火拳が余計なことを言ってしまいそうで、腕を掴んでお店から引きずり出した。

「なァ!アンタあん時のやつだろ!なァって!」
「大きな声出さないで!」

制止の声を黙らせて私はあまり人が来ない海岸へ連れていった。

「…海軍辞めて酒場で働くことにしたのか?」
「任務よ。だから余計なことを言わないで」
「それ、俺に言っていいの?」
「…貴方には関係ない任務だから」

目を見つめながら話す。
余計なことを言うな、するなという圧をかけて。
…と、していたのに、一方の彼はぷっと吹き出して笑った。

「な、」
「アンタ…変わったな。別人みてェ」
「わ、私は変わってなんていない」
「いーや!全然違うね。あん時はもっと…海賊どころか、色んな奴を恨んでる顔してた」

ボスン、と砂浜に腰を下ろして私を見上げる。
…そんな顔、していただろうか。というか、今私がそうでなくっているとしたら、原因は………


『お互い、悔いがないように生きようぜ』


「俺の顔に何かついてる?」
「……いーえ。」

どう考えても、貴方なんだけれど。
絶対に、言ってあげない。(それに、言われたところで何か変わる訳でもないし。)
よく分かんねェやつだ、と笑いながら自分の隣をポンポンと叩いた。座れということだろう。そんな近くには座らないけれど、彼と並んで腰を下ろす。

「今の方が、いい顔してる」
「それはどーも」
「つれねェなァ!」

けらけらと大口を開けて笑う彼は、どこかの2人を彷彿とさせた。前に会ったときは、ルフィともサボと関わりはなかったし、なによりきっと、そんなことを考える余裕もなかっただろう。
ザァ、と波が近くまで迫ってくるのを無言で見つめていると、隣からの熱い視線に気がついた。

「でも、また考えすぎてる顔だ」
「…そんなこと」
「俺にも届いてるぜ、アンタの噂。何か大変そうだな。」

俺の弟も随分世話になってるようで

ぺこりと礼儀正しく礼をする彼は、やはりサボと同じくお兄さんなのだと感じさせた。というか、噂になってるって怖すぎるんだけど。

「アンタ、ほっとけない感じするもんな」

けたけたと笑われてむっとする。
そんな子どものように言わないで、と言い返すと、悪かったよ、と笑いながら謝られた。(絶対悪いと思ってない)

「なァ」
「ん」
「アンタが今、俺と普通に喋ってんのは、任務で一般人してるからか?それとも」

今の俺に捕まえる理由がないからか

意表をつかれた。
炎の熱さを肌に感じた途端、彼は前に立って熱のある瞳が私を見下ろしていた。

「…後者、かもね。貴方を、今捕まえる必要があるのか、わからない」
「前、そうだったように?」


『お兄さんを捕まえる、お姉さんの方が悪い人だよ!!』


初めて彼と会った日。
私の全てをひっくり返された日。
あの日から私の正義は分からなくなった。
どちらが悪なのか、分からなくなった。
そんな私が、海軍にいていいのかも…分からなくなった。


「逃げるわけじゃねェけど、いいんじゃね?そう思うなら」
「…え」
「前にも言ったろ。…あんま考えすぎると、この海を生きていくにゃ辛すぎる。…アンタが思うようにやればいい。アンタが信じたいもん信じりゃいい。」

視界に水が溜まっていっていることを誤魔化しながら、そういう彼を見上げると、あまりに太陽みたいに微笑んでいるものだから眩しくなった。温かさすら感じるそれが、素敵だと思った。

「人によって立場っていうもんはある。俺も海賊だ。でも、海賊が人助けしちゃだめなのか?一般人は好きな人ができたっていいけど、海賊や海軍はだめなのか?そうじゃねェだろ。みんな”人の子”なんだから…やりてェようにやらないで、悔いが残るのはもったいねェ。」

自由が1番だ

にっと笑いながら私の頬に温かい手が触れた。ぐい、とこぼれ落ちる水分が拭われて初めて、自分の涙である事に気づく。そしてそれに気づいてから、歯止めが効かないようにどんどんと流れ出していくそれ。
火拳は、眉を下げながら仕方ないなという顔で私の頭をぽんぽんと撫でた。

「…俺も、親父に教えて貰ったんだ。」
「…白ひげ…?」
「そうだ。俺の、自慢の親父だ。」
「……素敵ね」

「あァ。だから、俺は今アンタに手を出すことはないけど、アンタがこれから親父に手を出すことがあれば…容赦はしねェ」

言葉とは裏腹に表情には余裕があって。
ああ、私が白ひげほどの海賊に手を出せるはずがないことも、よくわかっているんだと、悔しく思う。けれど、そんな余裕すら感じる笑みを浮かべるかれをとても羨ましく思った。
そう、思わせてくれる人に出会えたことを。

「なァ、もう泣くなよ。アンタには笑顔が似合う」
「………サボにも、同じことを言われたわ」
「げ。何だよ。サボとも知り合いなのかよ」

苦虫を噛み潰したように「げげー」と複雑な表情をする火拳が、どうしても面白くて、ふふと笑ってしまう。そんな私を見て、火拳は満足そうに「それそれ!」と満面の笑みを浮かべた。

「アンタのことは嫌いじゃねェ。ルフィも、サボも世話になってるなら尚更。」
「………悔しいけれど、正直私もよ」
「へへっそりゃ、どーも!」

その笑顔に救われるのは、2度目。
私ももう少し、好きに生きれたらいいな。
彼の言う、自由のように。

「…だから、」
「?」

温かい手が私の手を引っ張り上げた。その力と勢いに任せて腰を上げ、火拳と正面に向き合う。
さっきまであんなに満面の笑みを浮かべていたはずなのに、今は鋭く細めた目が私を真っ直ぐ見つめている。

「ティーチ、………黒ひげには近づくな」







点と線








繋げては、いけない



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