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「あ〜キャプテン〜探したよ〜!」
「…ベポか」
「勝手に行かないでって、あんなにいったのに!」
く、くく熊だ。
シロクマだ。
目をくりくりさせてる。表情豊か。(かわいい…)
どたどたとトラファルガー・ローに近づいてきたのはシロクマ、…しゃべるシロクマで。それだけで十分だけど、トラファルガー・ローをキャプテンと呼んだということは、このシロクマも海賊…なのだろう。
…熊って海賊になれるのか…。
「ベポ。こいつを今日から船に乗せる。」
「あ、そうなの?」
「えっと。なりゆきで。ニナです。」
「ぼくはベポ。キャプテンの船で航海士をやってるんだ」
…熊って航海士になれるのか…。
よろしくね!と手を握られると、ふわふわの毛とやわらかい肉球に癒された。
こんなにかわいい生き物が、トラファルガー・ローの船に乗っているだなんて…。信じられない。まさか…そういう趣味…。
「オイ。人のことを失礼な目で見るんじゃねェ。」
「げ、ばれたか…。それよりえっと、船長?」
「……ローでいい。」
「そうですか。ローさん。とりあえず適当に荷物を持ってき、ンぐっ」
「ハートの海賊団、トラファルガー・ローがこの島で目撃されている!注意しろ!」
「「「ハッ!!!」」」
ピクリと何かにローさんが反応したかと思うと、ガッと口をふさがれる。
何よ、とローさんの腕をつかむが、きっと海軍だろうという声が聞こえてきたので、おとなしく手を離した。
私も、これからこの人たちと海賊になるのだから。
私の様子を察してか、ローさんの手が私の口元から下ろされた。(というか、さすが…普通にさわれるんだな、私に)
「悪いが、荷物なんて時間はない。すぐに発つ。」
「うん、そうだろうと思ったのでいい。」
「物分かりがいいやつは嫌いじゃねェ。行くぞ。」
元々鋭い目をすっと細めて、船の方向へ歩き出すローさん。
その背中を追いかける前に、足元に転がっていた、何とか割れずに済んだであろうこの島のお酒を拾い上げ、ジャケットのうちポケットにぎゅっと詰め込む。まあ、ほとんど入ってないから、お腹で抑える感じだ。
そしてもう一度ローさんの方へ眼を送ると、細く、薄いように見えてがっしりしていることが背中から感じ取れた。
ああ、海賊の船長なんだなと、見つめながらその背中を追いかけた。
「いたぞ!!!トラファルガー・ローとその一味だ!!」
「少女を連れ去ろうとしているのか…!海賊め!!」
見つかった。
連れ去れるどころか自分からついていってるんだけど…。
なんというか、海賊というのはイメージが悪いから仕方ないものだな、と溜息がでた。そりゃあ、海賊は基本的にはさっきの奴らみたいなイメージだもん。私だって。
「…オイ。船に乗るのをやめるなんて言い出さねェだろうな。」
「フフ。それはないから、安心して」
私を船に乗せると言ってくれたローさんの目。
私はそれに、魅かれた。
この人の行く末を見たくなったんだ。
だから、
「ローさん、コイツら、私にちょーだい」
お役に立ってみせようじゃないか。
フッとローさんが笑ったのを背中に感じながら、初めて海軍と対峙する。
なんだろう。この感じ。ちょっと、ワクワクする。
「ガスト」
「グぁッ!?」
「な、んだ!うわぁ!?」
「この風には、立ってられないよ。海兵さん」
突風を巻き起こし、追ってきた海兵の一団を吹き飛ばす。
それを見届けると、さっとローさんとベポの手をつかんだ。
「な」
「え、ニナ?」
「二人とも、手、放しちゃだめだよ。あと、息は”できたら”して。」
は、と目を見開く二人を横目にニッと見て、右足で地面をぐっと踏ん張る。
「いっくよ…タイル、ヴァンッ!」
地面を、思い切り蹴り抜く寸前に、海兵の「ま、まて」と焦った声が聞こえたような気もするけれど、もう遅い。
ビュンッと音を立てて風になる。
ぐっと帽子を押さえながら歯を食いしばって前を見据えるローさんと、叫びながらどうにか私にしがみついているベポと。あまりにも二人が正反対で思わず笑ってしまった。
これからの日々が以外にも、楽しみなのだ
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