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  60


ざぷんと波の音が心地良い。
朝日が上り、キラキラと海水が輝いている。
いつもローから連絡が入ると海岸へ船を待ちに来ているけれど、今回はなんだか気持ちがソワソワしていた。電伝虫の先のローの声は少し神妙な声色だった。いい話か、よくない話かわからないけれど…私は待つことしかできないのだから。

と、水平線がゆらりと揺れたのを感じて、目をこらす。(ローはあと数日って言っていたから、着くには早いような…)しばらく見つめて、帆が白いことに気がついた。つまり、海軍船であるということだ。
そのマークの下に

「…、G-5」

そう、大きく書かれている。
どうして。ここはG-5の管轄ではないのに。
そう思う反面、数ヶ月前にクザンさんが話していたことと、とある人の顔が頭をよぎった。

『ここらの海域にいるみたいよ。』

確実にその船はこの島に向かってきている。それはつまり、あの人が…スモーカーさんが、ここへ向かっているということだ。1年近く前、キッドにお願いして前住んでいた島へ行った時に会ってしまった時以来になる。スモーカーさんは全く私の事情は知らないはず…なのに。
どうしてと考えている場合ではない。けれど何か出来る訳でもない。逃げる訳では無いけれど…

「…一応、お店は閉めておこうかな」

そんなことを思いつつ、海岸を後にした。






随分と、自分勝手だと自覚している。
あの日。ニナと会った日から

「スモーカーさん」
「…なんだ」
「次の島まであと半刻ほどです」

次の島…リシャフ島についてたしぎが報告を始めた。半分以上は耳から通り抜けて、あまり頭に残っちゃいねェ。隣から「聞いてますか?」と覗き込まれたが、空返事しか出てこなかった。

「はあ…とにかく!赤髪の支配地なので、少々行動には注意が必要かと思いますので、皆に伝えてきます。」
「あァ」

呆れて来た様子のたしぎは、すたすたと部下たちへ集合の声をかけて話を始めた。俺はその様子を視界に入れつつ、コートの胸ポケットからあるものを取り出す。
ただ1つの、ニナへの道標。
たしぎ曰く、ポーチュラカ?とかいう花らしい。あの日、ニナがもっていた花。ニナが落としたものは既に枯れちまったが、何かを察してか、別の島でたしぎが俺に買ってきたものだ。
あんだけ大事そうにしていたもんだ。きっと何かしらニナへ辿り着く手がかりになるはずだと疑っていなかった。

そしてその予感は、どうやら的中したらしい

「スモーカーさんっ、このお花…」
「……あァ」

リシャフに上陸して数時間、俺たちはとある店の前で足を止めた。"close"と看板が掲げれたその扉の両サイドにこの花が咲き誇る花壇があり、よく手入れされている様子が分かる。今まで辿ってきた島に、この花がなかったわけじゃねェ。ただ、ここまでしっかり花を咲かせているのは始めて見た。
そして、俺は確信した。ここにニナがいると。

スモーカーさんの探している方でしょうか、と花を見つめながら話すたしぎには、探しているのはニナであることは、話していない。
アイツは…死んでいるのだから。

「たしぎ」
「はい」
「一人にしてくれ」
「……はい。お気を付けて」

きっと数秒の沈黙の中で、「私も探し人に会いたかった」と思っていたのだろう。ただ、俺の様子を察してか、折れたようだった。コートを翻して船の方へ引き返していくたしぎを横目で見送ってから、もう一度、店のドアを見つめた。
俺が関わることではないかもしれない。
これは、俺の我儘だ。
ただ、アイツと







もう一度でいいから









会えるだけで

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