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『……1回、だけでいいの。…私を』


脳裏に浮かぶ昨日のニナの言葉。
その彼女は消え、ユースタス屋の船もない。
……やられた。
ニナが何を言ったのか知らねェが、ユースタス屋は彼女の言葉に乗ったのだろう。だから奴も、奴のクルー誰一人として残さず日の出前に、出航した形跡。…そしてそこにきっと、ニナも一緒にであることが想像できて、俺はぎゅうと拳を握りこんだ。

何故、俺ではなく奴を頼った

俺はただただそれが悔しくて堪らない。
きっとあの後に続いた言葉は、「ここから連れ出して欲しい」に近いものであることは、俺には容易に想像できる。…アイツは変に固くなすぎるから、決めたことだと曲げないつもりでここに留まっていたが…行きたい場所や、会いたい連中も多くいることは俺が1番よく知っていた。
このことを俺から言い出すことが彼女への冒涜であると考えていた節もあり、俺からそれを口に出すことはなかったし、それでいいと思っていた。
……だからこそ

「……クソッ…」

その頼りどころになれすらしなかったことに、ただただ無念の思いが積み重なっていく。『少しお休みします』と貼り紙がされたドアをドカンと殴りつけて、その僅かな痛みに、俺は現実に引き戻されていくのだった。









「良いのかよ、本当に」
「うん。後でたくさん怒られる」
「…そーかよ」

出航して2時間ほど。思っていたよりも飄々とした様子で水平線を見つめ続ける女を見下ろす。いや、飄々としているのは見た目だけだろうな。内心、トラファルガーを裏切った形になる今回の旅路に、罪悪感でも感じていることが想像できる。
まあ俺としては、トラファルガーざまァという気持ちでいっぱいだし、ニナが他の連中には吐き出すこともなかった我儘を俺には出した優越感があり、気分がいい。

「……1週間くらいかな、」
「航海士の話ではそうらしい」

小さなニナのつぶやきに答えたのはキラー。慎重派なキラーがよく今回の話を聞いたもんだ。まァ、反対されても聞かせてたけどな。

「ありがとう、キラー」
「いい。旅は道連れだ。」

ニナの頭を撫でるキラーの手をべしんと払ってやる。キラーは「このくらいいいだろう」と反論してくるが、許さねェ。
この船にいる間は、コイツは俺のもんだ。

「貴方のものでもないよ」
「五月蝿ェ」
「いたっ」

頭を軽く叩いてやると、ようやく少し笑ったニナにどこかほっとする自分がいた。トラファルガーを気にしてか、全く笑顔が見れなかったから。(随分と甘い男になったもんだ)
この旅は1週間程度…長くもあり短くもあるこの期間で、少しでも俺に気を向けさせてやる。隣に佇む女の柔らかい髪を梳いてやると、何、と見上げるその瞳。それに俺だけが写ればいい。そうしてやるから、覚悟しとけ。








宣戦布告









コイツにも、アイツにも

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