後篇

「ヒトの血液は、体重のおよそ13分の1あるといわれている。男性なら約8%だ。つまり、お前の体重のうちの5kgくらいは、血液だ」
「それがどうした」
「血液は古来から様々なものに例えられてきた。特に興味深いのは、アステカのものだ。アステカでは、血液は太陽とみなされていたんだよ。どうしてだと思う?」
「知らないな」

「アステカにおいては、太陽の運行と血には密接な関連があると信じられていたんだ。だから、太陽の正常な運行を守るために人間の心臓と血を生贄として捧げたそうだ」

狡噛の頬を伝う血液。
それを槙島は、―否、正確には古代アステカの民であろう―は、太陽を連想したという。
「それで?血液が太陽だからなんだ。俺の心臓を捧げろとでも言うつもりか?」
「そんなつもりは毛頭ないよ。ただ、お前の意見が聞きたくてね」
「意見、だと」
「そう。同じものだと思うかい?太陽と、その頬を流れる血液と」
槙島は、そう言いながら、右手の人差し指で血液を掬い、舐めとった。
「カップ一杯分のインクを海にこぼし、均等にかき混ぜて、再びカップで掬うと、元のインクの分子は1〜2個入るらしい。その理屈で言うと、今、僕の中にはお前の血液が分子1〜2個入っている、ということになるのかな」
なんでもないように言ってのけた。
前言撤回だ、と狡噛は思った。
やはり槙島は人間離れした人間なのかもしれない。
しかし―

「似ている、と思うな」

この答えを出してしまう狡噛自身も、人間離れしているのかもしれないと。
槙島の言おうとしていることは、理解できる。
それの裏に隠された、本当の意味も。
だが、

「同意はしないがな」

「お前はそう言うと思っていたよ」
槙島の言葉に、満足そうに狡噛は口角を上げた。
それでいい。と。
お互いに分かってはいる。相手が何を望んでいるのかを。
だが、今のままの関係がいいとも望んでいる。
先に進めばいいじゃないか。
誰かがそういったところで、この関係は進展しないこともわかっている。
臆病なわけではないと思う。線引きをしているだけだ、と、言い訳じみた言い分を考える。

→続く

[ 23/25 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -