「さ、さむいぃぃ・・・」

どんより雲が太陽を覆う。
朝にふと見た天気予報は全て傘模様、全体的に気温が低くなるでしょう、無機質に響く機会音に虚しくなり音源を消した。ため息一つ、くしゃみ二つ。

「ため息一つで、一つの幸運が逃げるんじゃぞ、ファルべさん」

ガタガタと暇なく肩を震えさせているアルジャーノンの隣、緑色の髪を揺らしながら朔太郎は頬杖をついた。当の本人も不満げに、顔に影をつくる。目の前にある飴の袋を丸めると、ゴミ箱にめがけて投げてみる。途中で軌道を変えたそれは、伏している誰かの頭に当たった。

「・・・雨は、嫌いじゃないんだけどね」

少し強がってみた。アルが喉から唸る。そんなことない、雨はまるでチョークの粉かのように自分を綺麗に溶かしてしまいそうで、大嫌いだった。

「雨が降ってようがなかろうが、仕事は溜まっていくのよ」

床にあっけなく落ちた飴の袋を拾うと、それはゴミ箱へと捨てられた。ミザリィア=アイゼンディアスはどこからか棒付きのキャンディを取り出し、口へと運んでいた。

窓に次々と流れる水滴は留まることなく地面に吸い込まれていく。反比例するかのように、目の前の資料は溜まっていくばかりだった。あぁ、憂鬱だ。

目の前の男はうたた寝をし始めていた。そもそもここの班じゃないのによくも通うもんだと、最近関心している。するもんじゃない、とこの前アルに怒られたばかりだが。

「フ、ファルベさん」

「、なに」

ここ、と言わんばかりに文字だけが並ぶ紙を指差すその瞳は、既に雫を溜め今にも溢れそうだった。自然に溢れる笑みが、少し憎い。カップを置く音がやけに響いた。

「・・・そこはさ」


窓から射す光が、机を照らす。
アルの机に乗っていた最後の紙切れに印鑑を押し、窓を見上げる。
雨が止むのに、時間はかからない。


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