18 欠席の時間



「すみません…えっと、や、柳沢です、ごほごほ……今日、熱で…」

「分かった。あいつには休みと伝えておくゆっくり休んでくれ」

「ごほ、ありがとうございます。…烏間…先生……失礼します」


私は、修学旅行から帰ってきて体調を崩してしまっていた。学校に電話をしたら烏間先生が出てくれて欠席の連絡を入れた。連絡をし終えて私は再度布団の中に潜り込む。どんだけ布団を被っても寒いことから熱はまだまだ上がりそう。こんな動けなくなるほど寝込んだのはいつぶりだろうか?一人暮らしをすると風邪とかは引きにくくなるもの。社会人になってからは1回も寝込んだことがなかった。
目を閉じると相変わらずぐるぐるした暗闇が広がっているが身体を休息を欲していた様ですぐに眠りにつくことが出来た。



◇◇◇



次に目を覚ましたのは午後3時。いつもなら午後の授業が終わる頃。今日は1日中寝てしまっていたようだ。自分で額を触ってみると汗がじんわり滲んでいた。パジャマも。寒気は無くなったが今度は暑い。これはまだ熱がありそう。
明日も学校があるので解熱剤を飲もうとキッチンに向かうと解熱剤はあったが、食べれそうなものが一つもない。解熱剤を飲むにしても胃に何かを入れておかないと荒れてしまう。
仕方ないので近くのコンビニにうどんでも買いに行くことにした。



◇◇◇



家を出て数分。足元がふらつく。
やっぱり、外出は無謀だったかと反省する。が、今から引き返すわけにもいかず目的地のコンビニ目指して頑張って歩く。


「食品一点で138円になります」

「…」

「200円お預かりいたしましたので62円のお返しとなります。ありがとうございましたー!」


お願いです。もっと静かな声で接客をお願いします。
目的のうどんを漸く購入して帰路につく。早く布団に入りたい。
エレベータのボタンを押す自分の部屋のある10階までが異様に長く感じる。ぐるぐるしながら部屋の前までたどり着き鍵を探す……―――

そこで、私の意識は途切れた―――……



◇◇◇



「しくしく……今日はなまえさんはお休みです」

「なまえちゃんどーしたの?」

「熱が出てしまったようです」


殺せんせーが泣くところから今日のHRは始まった。すると、なまえちゃんが欠席であることを告げられる。……珍しい。もともと俺や寺坂以外遅刻や欠席の少ないE組。なまえちゃんが休みことも初めての事。隣の空っぽの席を見れば少し寂しかったり、
毎時間増えていくプリントをちゃんと揃えて机の中に風に飛ばされないように入れておく。



◇◇◇



「にゅや!お願いしてもいいんですか!カルマ君!!」

「ん、いーよ 別に。どーせ暇だし」

「ではこのプリントとこの先生特製の風邪薬を…」

「あはは…プリントだけにしとくよ」


怪しげな殺せんせーの風邪薬は返して先生から新しいプリントを受け取る。なまえちゃんの家を知っているのはたぶん俺ぐらい。別に帰る方向だし。

何度来てもなまえちゃんの住んでいるマンションは大きい。確かなまえちゃんの部屋は10階。管理人さんに言えば学生ってこともあって直ぐにロックを解除してくれた。
エレベーターが10階につくなまえちゃんの部屋は―――


「なまえちゃん!!!」



◇◇◇



部屋の前に倒れていたなまえちゃん。部屋の鍵を握りしめていたからその鍵で部屋を開けてなまえちゃんをベッドに寝かす。なまえちゃんは触れて直ぐに分かるような高い熱。コンビニの袋にはうどんが入ってたことからだいたいは想像がつく―――


「カ、ルマ君…?なんで……?」

「部屋の前で倒れてた」

「……あー」


暫くすると目が覚めたなまえちゃん。状況を簡単に説明すると、バツが悪そうに苦笑いをするなまえちゃん。俺がプリントをたまたま届けに来たからよかったもののあのまま誰も来なかったらと考えるとぞっとした。


「ちょっと待ってって、」



◇◇◇



「薬飲むために買いに行ってたんでしょ?…美味しいか分かんないけど、はい」

「ありがと、カルマ君」


お盆に乗せられたあつあつのうどんとお茶。そして、キッチンに置かれていた解熱剤。
なまえちゃんはうどんの器を膝の上に乗せてゆっくりと食べていく。


「おいしい」

「そ、よかった」


あんまりふんわりと儚げにほほ笑むものだから目を逸らしてしまった。
なまえちゃんはうどんを全部食べて、薬もしっかりと飲む。それを見届けてお盆ごと食器をもらう。「ごめん、ありがとう。流しにそのまま置いといて」なんて後ろから聞こえたけど食器洗いぐらい俺でも出来るから柄にもなくしておいた。


「じゃ、ちゃんと暖かくして寝てね。俺帰るし」

「……やだ」

「え、」

「帰っちゃいや」


いやいやいや!!!ちょっなまえさん?!
布団に潜り込み手だけを出して必死ななまえちゃん。いつものしっかり者のなまえちゃんはどこへ?


「……じゃあ、寝る間で手繋いであげよーか?」

「ほんと?」


ぴょこん!という効果音が聞こえてきそうな様子でなまえちゃんは布団から出てきて俺の手をとる。おいおいマジか。

数分後―――


「ねー無防備すぎない?」


薬が効いているのか直ぐに眠ってしまったなまえちゃんは俺の手を握りしめてぐっすり。信用してくれているのは嬉しいけど俺も健全な男なわけで。
上気した頬に汗ばんだ額、胸元……ぷっくりした唇。


「俺だけの前にしてよね」


今日のところは寝顔を拝むだけにしておこう―――