15 しおりの時間



人目のない廃工場。下品な高校生たちの笑い声と鉄パイプを擦る音だけが響いていた。
私たちは縄で動けなくされている。後ろにはソファーが置いてあるがカビ臭く極力近づきたくない。


「そういえばちょっと意外。さっきの写真。真面目な神崎さんもああいう時期あったんだね」

「………うん」


神崎さんの過去、思いが話される。私とカエデちゃんは静かに耳を傾ける。


「うちは父親が厳しくてね。良い学歴 良い職業 良い肩書きばかり求めてくるの。そんな肩書き生活から離れたくて名門の制服も脱ぎたくて知っている人がいない場所で格好も変えて遊んでいたの。……バカだよね。遊んだ結果得た肩書きは<エンドのE組>。もう、自分の居場所がわからないよ」


「そんなことないよ」と、私は笑顔で神崎さんに伝える。大丈夫。中学生の後悔なんて何回だってやり直せる。だって、これからの人生の方がずっとずっと長いんだもん。
すると、


「いーや!俺等と同類になりゃいーんだよ。エリートぶってる奴等を台無しにして…なんてーか自然体に戻してやる?みたいな。俺等そういう教育沢山してきたからよ。台無しの伝道師って呼んでくれよ」


主犯格の高校生は目の前に現れ言う。正直、何を言っているのか理解したくないし、カエデちゃんと神崎さんに聞かせたくない。


「台無しというか羽目を外したくなる気持ちは分かるけどあなたたちのしていることはただの犯罪ですよ。それに、他人に人生を変えられるのはもうごめんよ!ッ!」


ガンっ!!!

殴られ首を絞められる。手の自由が効かないためされるがままになる。怖い…けど、負けたくない!!


「!ったく生意気な女はピーピー泣きわめく女より嫌いじゃねーがもう少し可愛げあってもいーんじゃね?」

「ッ、あんたに可愛いなんて思われなくても結構!……私には何をしてもいい、この2人には手を出さないで」

「……いいぜ? 来た来たお前の撮影スタッフがご到着だぜ」


撮影スタッフ??!
扉から聞こえた複数の足音に恐怖するが直ぐにその恐怖は希望へと変わる。ぼこぼこにされた高校生を堀投げたのはカルマ君。


「修学旅行のしおり1243ページ。班員が何者かに拉致られた時の対処法―――」


みんなが助けに来てくれた。しおりには拉致対策が詳細に掲載されていたようで直ぐにここが分かった様子。……そんなしおりないよ、


「こんだけの事してくれたんだ。あんた等の修学旅行はこの後、全部入院だよ」


すると、新たに複数の足音と物音が響いてきた。新手にみんなが構えるとそこには黒子の殺せんせーと手入れ済みの不良高校生たち。

そこからは早かった。鈍器(しおり)を高校生たちの叩き込み事件は解決した。
私は、奥田さんに縄を解いてもらう。カエデちゃんは渚君に、神崎さんは杉野君にそれぞれ縄を解いてもらっている。


「すみません。なまえさん、私……」

「奥田さんは怪我無かった?」

「え、はい…」

「よかった」

「っ!ありがとうございます!」


奥田さんに縄を解いてもらい自由の身になり2人を見る。笑顔のカエデちゃんとすっきりした表情の神崎さん。2人とも無事で本当によかった。


「大丈夫、なまえちゃん」


すると、カルマ君が私に上着を掛けながら声を掛けてくれた。


「みんな来てくれたからね!大丈夫!というか、この旅行中はカルマ君の上着借りっぱなしだね」

「……茅野ちゃんに聞いたんだけど、殴られたって この傷――」


眉間に皺を寄せて辛そうな表情のカルマ君。私の頬の傷に優しく触れる。私はなんでも無いように言うと少し怒った口調でだいぶ心配されてしまった。


「女の子なんだから…無茶しないで……守れなくてごめん」

「カルマ君……」

「次は絶対守るよ」


(一応中身は)大人だからみんなを守ることが義務なんだと思っていたけどカルマ君は私を守ると言ってくれた。そっか、心配って大人も子どもも大きな違いはないのかも…知っている身内が傷つけば誰だって嫌だし、心配する。


「うん もう無茶しない…ごめん、ありがとう」



(無茶といえば、カルマ君だっていつも無茶しすぎ!!)
(え、あ、あれは…!ほら、俺男だし…ある程度は)
(問答無用!!!)


班別行動はこうして幕を閉じた―――