14 台無しの時間
到着した京都は、私の知っている京都と大差なく少し安心した。
点呼を男子は磯貝君、女子は片岡さんがとって全員いることを確認すると烏間先生から今日の予定と注意事項を受ける。先ずは、班別行動…E組のこの修学旅行のメインイベントだ。
私たち4班は午後から殺せんせーが来る。それまでに行きたいところに行って暗殺場所の確認をしておかなければいけない。
「でもさぁ、京都に来た時ぐらい暗殺の事忘れたかったよなー。いい景色じゃん 暗殺なんて縁の無い場所でさぁ」
「そうでもないよ杉野。ちょっと寄りたいコースあったんだ。すぐそこのコンビニだよ」
そう言って渚君の寄りたかったという目的地は「近江屋」の跡地。坂本龍馬の暗殺地。
「歩いてすぐの距離に本能寺もあるよ、当時と場所は少しズレているけど」
本能寺の変の織田信長も暗殺の一種。
「ずっと日本の中心だったこの街は…暗殺の聖地でもあるんだ」
渚君に感心する。暗殺向けコースを調べて更に、個人でも歴史なども調べていることに。
京都を見渡すとこんなに綺麗なのに、ずっと昔には沢山の血が流れ争いがあったのだと思うと色々と考えさせられる。暗殺として対象(ターゲット)されるのはみんなに認められているから。地球を壊す殺せんせーももちろん歴代の暗殺されたものとして入れたい。
「次 八坂神社ねー」
「えー もーいいから休もうぜ。京都の甘ったるいコーヒー飲みたいよ」
テンションの高いカエデちゃん。私もそろそろ休みたい…けど八坂神社も気になる。寝不足に加えて京都は盆地。
の中旬にもなると少しだけむしむしと暑い。
「じゃあ、八坂神社に行って近くで休もうか。私、コーヒーは飲めないな…抹茶のかき氷食べたい!」
「いいね。そうしよっか!」
「さんせーい!」
みんなの了承を頂いて私たちは八坂神社を目指した。
◇◇◇
休んだ甘味処でお昼とお目当ての抹茶のかき氷を食べれた私は大満足していた。膨らんだお腹を撫でながら美味しいものを食べたことにもう凄くご満悦。
「美味しかったねー」
「ねー私、あんなに美味しい黒餡蜜初めて」
甘党のカエデちゃんも満足だったらしい。
そして、私たちは暗殺向けコースに選んだ祇園に来ていた。
「静かで人気ないね」
「うん。一見さんお断りの店ばかりだから目的もなくフラッと来る人もいないし見通しが良い必要もない。だから、希望コースにしてみたの。暗殺にピッタリなんじゃないかって」
神崎さん希望のコース。流石、神崎さん。地理や背景をちゃんと調べている。渚君も神崎さんもちゃんと調べていて凄いなぁ。私の中学生の班別行動なんてグルメ情報しか見てなかったかも……
みんなで神崎さんを褒めながらここで暗殺を決行しようかと話していた、その時…
「なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」
突然現れた不良高校生の集団。
今までの私ならテンパっていたけど最近の私はこの非日常のお陰で少しだけ冷静になれた。カルマ君が問題を起こして注意を引きつけている間に高校生たちには見えていなかったであろう奥田さんを安全な物陰に隠す。
そして、カエデちゃんと神崎さんの元へ――――
「カルマ君!!!」
カルマ君が背後から高校生に鉄パイプで殴られ倒れていた。吃驚したが辺りを見渡し状況分析をする。相手は私たちよりも一回り二回り大きい男子高校生。こっちは男子たちは殴られてカエデちゃんは既に掴まってしまっている。……今は、無理だ。どうしよう……やっぱり、いざというと冷静なんていられない。
カエデちゃん、神崎さん、そして 私を連れ去る高校生たち。車を用意してナンバーを隠している様子から計画的な犯行で常習犯であると分かる。
「1人で歩けるから乱暴しないで!!」
引っ張り押さえつけるような扱いの高校生に声を荒げる。もちろん、連れ去られる力は変わらないが声を出したことで焦った気持ちを無理やり落ち着かせた。
◇◇◇
「チョロすぎんぞこいつら!!」
「普段、計算ばっかしてるガキはよ こういう力技にはまるっきり無力なのよ」
「ガキというか…ガキに集団でしか手を出せないあんた達のほうがよっぽどガキじゃない!」という言葉は寸でのところで飲み込んだ。前の席には主犯格であろう高校生。後ろにはニタニタと気色の悪い笑みを浮かべた3人の高校生が私たちを舐めまわすように見ていた。
「…ッ 犯罪ですよねコレ。男子達あんな目に遭わせといて」
カエデちゃんの震える声。カエデちゃん…神崎さん…
2人とも中学生の女の子だもん。絶対に怖いよね……
「人聞き悪ィな〜修学旅行なんてお互い退屈だろ?」
「まずはカラオケ行こーぜカラオケ」
「なんで京都まで来てカラオケなのよ!!旅行の時間台無しじゃん!!」
「その台無し感が良いんじゃんか。そっちの彼女ならわかるだろ」
主犯格の前の高校生が神崎さんをバックミラー越しにみて携帯を弄り画面を見せてくる。そこには茶髪でウェーブかかった髪、派手なタンクトップに短パン、派手なアクセサリーを重ね付けしている少女が。よく見ればこの少女は神崎さん?。
「去年の夏ごろの東京のゲーセン これお前だろ?」
神崎さんの暗くなる表情を見てニタリと笑みを浮かべ距離を詰める高校生。
「毛並みの良い奴等ほどよ どこかで台無しになりたがってんだ。楽しいぜ台無しは。落ち方なら俺等全部知ってる。これから夜まで台無しの先生が何から何まで教えてやるよ」
羽目を外したいって気持ちは分かる。みんな通る道だと思う、だけど、この高校生みたいに他人を引き込むのは違う。高校生にもなってそんなことも分からずに生きているなんてこの高校生たちの今までが想像できる。こういうやつは羽目の外し方を知らない…何を仕出かすか分からない。
(カルマ君…みんな―――ー)