自分を見つける為の竹刀

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稽古場のタオルを交換に来たら珍しい人が稽古をしていた。

「沖田さんも稽古するんですね」

「…みょうじは手厳しいですねィ」

「ふふ。だって、いつも土方さんに悪戯してるところしか知らないんですもん」


いつも悪戯するか土方さんに怒鳴られている沖田さんは手厳しいなんて言っているが気にもしていない様子。私が今入れ替えたばかりの新しいタオルで汗を拭る。沖田さんの竹刀はよく見ると手の持つ部分が赤黒くなっている。振っているところなんて見たことなかったけど稽古しているんだ。

「ちょっと付き合いなせェ」って言葉と共に投げられたその竹刀をわたわたしながらも何とか受け取る。見た目よりもずしりと重たい竹刀。


「な、何言ってるんですか!私、剣術なんて習ったことないですし。それに、竹刀持ったのも今が初めてです」

「みょうじ」

「はい?」

「みょうじは強くなりたいって思ったことないですかィ?」


“強くなりたい”思ったことは今まで沢山ある。でも、私は運動が得意な方でもないし根性もない。今まで、思うだけで行動できないでいた。


「何も考えねーで打ってきなせェ」

「…」


ぎゅっと竹刀を握りしめる。初めて持つはずなのにしっくりくる竹刀。沖田さんのだから?着物だから少し動きにくいけどゆっくりと竹刀を目の前に構える。不思議と呼吸が大きく聞こえる。周りから音がなくなる気がする。
私は昔の泣いているだけの女の子じゃない!


「へェ、様になってやすよ」

「は!……く、……ふん!」


型とか流儀とかは知らない。思ったままに沖田さんに竹刀を向けて打ち込んでいく。沖田さんは私の竹刀をなんでも無いように躱していく。赤い目が私を射抜くが私は口を結び更に打ち込んでいく。
強くなりたい。強く。強く。強くなりたい!


◇◇◇


「いた、」


トンっと、竹刀を持つ手に手刀を受けて終了。私は結局沖田さんに一度も当てることが出来なかった。着崩れた着物を直しながら呼吸を整える。


「いい筋でしたぜ」

「…はぁ、はぁ…、って、…一度も、当てれなかった…です」

「俺に当てるなんて100年早えでさァ。で、強くなりやしたかィ?」


ニヤリと笑った沖田さん。私は竹刀を握っていた手のひらを見つめて開いたり閉じたりしてみる。余程力を入れてしまっていたようでギシギシと間接は動かしにくく痛む。指の付け根には豆もできかけていた。


「まだまだです。…強さってなんですか?」

「強さねィ…じゃあ、それみょうじにやりまさァ」


“それ”と沖田さんが指しているのは私の持っている沖田さんの竹刀。


「強くなれって言ってるんじゃねー。ま、それ振ってたらいつか分かるんじゃねーですかィ?」


(…今日の沖田さんどうしたんだろ?)

それはもう1年以上前のおはなし。

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