あなたの初めての涙

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それはいつもの昼下がり。私は昼食の食器を洗っていた。すると、震える携帯にはお妙さんの名前。こんな時間に電話とは何かあったのだろうか。いつもはスナック“すまいる”で夜に働くお妙さんにとって今の時間は仮眠をとっている時間だし、私が勤務中であることも知っている筈である。緊急性を感じて一緒に食器洗いをしていたお琴ちゃんに断りを入れて私は携帯のボタンを押して電話に出る。電話の向こうからはお妙さんのすすり泣く声が聞こえた。


「!!ちょ、お妙さん大丈夫ですか?」

「ごめんなさいね。ちょっと声が聞きたくて…」

「お妙さん…、どうしたんですか?大丈夫ですか?今どこですか??」

「さようなら」


いつだってお妙さんは笑っていた。お妙さんには笑ってほしい。なのに今のお妙さんは泣いていた。自分で選んだ道ならお妙さんなら笑うはず…お妙さん、



◇◇◇



あれから、背中に影を背負った近藤さんに全てを聞いた私は私の武士道を貫き通すために柳生家の前にいる。私の横には私だけではなく知った面々が一同していた。


「みょうじは帰ってなせェ」

「嫌です。友達助けれなかったら私の武士道に反します」

「…なまえちゃん武士だっけ?」

「!、みょうじそれ、」


私の手には木刀。これは以前沖田さんから頂いた木刀(番外編:自分を見つける為の竹刀参照)。あれから暇があれば振っていたこの木刀はこうやって友達を…大切な人を守るために振ると決めたんだ。
「今日から武士なんです」と、近藤さんのツッコミに返し沖田さんに頂いた竹刀を握りしめる。
私は私の世界を今度こそ守るんだ。

柳生家。かつては将軍家の指南役をおおせつかっていた程の名家。天人が来てから剣術は零落する一方だというのに未だその華麗なる技を学ぶため門を叩く者も多いとか、
これの次期当主たるが柳生久兵衛。小柄だが神速の剣の使い手で柳生家始まって以来の天才と呼ばれている。


その柳生家と新八君率いる天堂無心流恒道館道場門下の私たちの決闘が幕を開けた―――

[ / 後 ]