人は弱ると人が恋しくなるもの
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「はぁー。息が白い、」
年も明けて冷えが厳しい季節。一年で一番寒いのは2月とか誰が決めたんだろうか。こんな寒い中真面目に働くのは女中のみ。隊士の皆さんは土方さんに喝を入れられなければ動くこともしない。まぁ、こんな寒い中活動を起こす攘夷浪士がいないからだらけちゃってるんだろうけど。
「雪は好きだけど……これはちょっと、」
屯所の玄関前は例年にないほどの大雪のため塞がれてしまっている。買い出しに行こうとしたしたのに。仕方ないので雪かき道具を出して粗方道を作り同期のお琴ちゃんに買い出しをお願いした。お琴ちゃんを見送った後、私はこの寒い中汗を流しながら雪かきに勤しむ。
一時間ほどかけて石畳みが顔を出す。薄っすらと雪は残っているが上出来だと思う。結局今晩また元通りになると思うと泣けてくるが自然相手ではどうしようもない。
「まだまだ降りそう…」
見上げた空はどんよりと曇天。北風が身を刺した。
◇◇◇
「すみません!!!みょうじさん…大根買ってくるの忘れてしまって…」
何ということだろうか。買い出しを頼んでいたお琴ちゃんは大根を買い忘れてしまったらしい。今日の献立はおでん。大根がないと始まらない。時計を見るともうし込みを始めなければならない時間。先輩女中たちは仕込みに入っている。
「わかった!今日お琴ちゃん仕込み担当だもんね。私がさっと買ってくるから他の仕込みからお願いしててもいいかな?」
すると、パァアアアと効果音が聞こえてきそうなほど満面の笑みのお琴ちゃん。もう可愛いな。
「みょうじさんありがとうございます!…外すっごく寒いんで暖かくしてってくだい!!!」
それにしても寒すぎる。雪かきしている時は動いていたしそこまで寒くは無かったが日が傾き気温がぐっと下がったみたい。私はお琴ちゃんの忠告を受けて私の出来る最大限の防寒具を身に纏い買い出しに向かったのだが……。早く大根を買って屯所に戻らないと凍えてしまう。
スーパーはこの寒さの為かお客さんは少なくお目当ての大根は直ぐに買うことが出来た。急いで屯所に向かい夕飯のあつあつのおでんを思い浮かべる。
冷え切った手を擦り合わせながら少しでもと暖をとる。このままお風呂の準備を済ませてしまおう。
「みょうじ」
「え?」
ぴと、
「ひゃーー!!」
「お、おい!!」
ドンっ!!!
沖田さんに呼ばれて振り向いたと思えば背中に冷たい感触。
沖田さんも外回りしていたらしくその冷たい手をあろうことか私の背中に忍ばせてきたのだ。私は突然の冷たさに驚きかじかんでいたいた足ではバランスをとれず縁側から雪の積もる中庭に墜ちてしまった。
「その……すまねェでさァ……みょうじがそこまで鈍くさいとは、」
「もう!!!沖田さ…! はっくしゅん!!!」
怒りの声はくしゃみに変わった。
◇◇◇
無事にあの日の夕飯にはおでんが並びましたよ。並びましたとも。
でも、翌日私は布団の中。あんな寒い日に雪にダイブしてしまったのだから風邪を引いてしまっても仕方ない。鈴木さんには「大丈夫よ。それよりたまには風邪でも引いて休みなさい」と休みをいただきました。
熱が高いようで視界は霞みぼんやりするし、鼻も詰まるし咳もあって呼吸もしにくい。寒いのか暑いのか平衡感覚もぐにゃぐにゃだ。大きくなってから久しぶりに風邪を引くと何でこんなにしんどいのかな?
「みょうじ生きてやすかィ?」
「……(沖田さん?)」
喉もやられている為声が出ず空気が喉を抜ける。障子を見るとそっとこちらを覗いている沖田さんがいた。……沖田さん???
いつもなら断りもなく私の部屋に入ってくる沖田さん。「入っていいですかィ?」なんて…明日は沖田さんも風邪かな?なんて失礼なことを考えてしまう。
◇◇◇
朝からみょうじの姿が見えない。今日も雪は積もっている。こういう時はみょうじが率先して雪かきをしている筈なのに。食堂にも物干し場にもどこにもみょうじがいない。
「総悟、お前みょうじのとこ行ったか?」
「何言ってんでさァ 今日一日みょうじのヤロー姿見ねェんでさァ」
「どうせ今回も総悟が悪いだろう」
「?」
土方さんによればみょうじは風邪を引いて寝込んでいるらしい。みょうじはいつも少々の体調不良や風邪なら仕事している真面目人間だ。それが寝込んでいるということは……
昨日のことを思い出しそれが原因であると辿りつく。仕方ないので今回は看病をしてやることにしまさァ。
しかし、看病といえば何をすればいいのかわからず女中のみょうじの先輩であるらしい鈴木さんに話を少し聞くことにした。そしたら、予想以上にがっつりと薬とおかゆを持たせられ看病をしてくるように頼まれた。
障子からそっとみょうじの様子をみる。咳と一緒に苦しそうな呼吸。こりゃあ、重症らしいでさァ……
「みょうじ生きてやすかィ?」
「……(沖田さん?)」
返事は返ってこないがこっちを見上げ口をゆっくり動かしているみょうじ。どうやら声が出ないらしい。
「入っていいですかィ?」
いつもは言わない断りを一応いれてみょうじの頷きを確認してからそっと入室する。起きようとするみょうじを制止して額の濡れタオルを取り換えてやる。気持ちよさそうな表情を見てほっとしてから俺は鈴木さんに持たせられたお粥を茶碗に移す。
「鈴木さんからでさァ 腹になんか入れてからじゃないと薬飲んじゃダメみたいでさァ」
俺は鈴木さんに言われた通りみょうじに伝える。困ったように少し笑ってからみょうじはそっと起き上がろうとする。俺は少し手伝い背中に部屋の端にあった座布団をかましてやる。
ふーふーと冷ましながらゆっくりお粥を食べていくみょうじ。茶碗が空になったところでお代わりを聞くが首を振るので薬の準備をする。飲み込みがしにくいのか辛そうなみょうじ。飲み終わったコップをもらう。
「じゃあ、俺は行きまさァ……!」
立ち上がろうとして袴に違和感を感じた。見ればみょうじが俺の袴の裾を掴んでいた。……?
「なんでさァ」
な、な……
これみょうじですかィ?
いつもはイタズラ(一方的に)するけど、今のみょうじは熱で潤んだ瞳、火照った頬その顔で見上げてくる。……これはヤバい、
「居てほしいんですかィ?」
と聞くと必死に頷き肯定の意思を示すみょうじ。
こんな素直なみょうじ初めてでさァ。……しょうがねー、今日だけでさァ。
後日、
(え、沖田さん風邪引かれたんですか?!)
(慣れないことするからだろ)
(……私、看病行ってきます)
(ほっとけ)
(土方さん!!)