入隊篇 05
気持ちいい朝。真選組に入隊して、隊服を着て初めて迎える朝。仄かな煙草の匂いに顔を上げれば案の定、副長である土方が怠そうに歩いていた。
「あ、土方さんおはようございます」
「…」
「土方さん?」
様子が可笑しい。聞こえてはいる筈のなまえの声に反応しないだけでなく柱にぶつかってしまっているのだから。
可笑しいといえば、近藤さんも山崎さんも他の隊士たちも今朝から土方と同様、様子が可笑しい。
やはり、なまえという異分子が入ったことで士気に影響してしまったのだろうか?
「なに、こんなとこで突っ立ってんでィ」
「あ、沖田隊長おはようございます。いや、今日は皆さんの様子が可笑しいように感じまして、」
「あぁ、その事なら心配いらねェですぜェい」
「え、」
「慣れないことしたからあぁなってんでィ」
意味深な言葉を残して沖田は去ってしまった。
◇◇◇
月明かりの夜。風呂上がりのなまえは濡れた髪をタオルに包みながら縁側を歩いていた。
疲れた。屯所の配置を覚えるため今日は殆ど歩き回っていた。本来のなまえの体力は一日中歩き回って疲労してしまうようなことはないのだが、今日は屯所のあちらこちらから感じる視線に気疲れしてしまったのだ。
「ふぅ、」
「だいぶお疲れですねェい」
「隊長、そ、そんなこと私なんて何もしてないですし、」
「そうですねェい、じゃあ、此れから行くとこにでも付き合ってくれやすかィ?」
連れてこられた其所はいつもは会議を行う大広間。隊士たちが揃う中目の前には酒とそのつまみ。
「黙ってて悪かったな、なまえの歓迎会まだだったろ?」
「副長、」
「さぁ、今日の主役はなまえちゃんだ!座った座った!」
「局長、」
「早く座りなせぇ」
3人に促され席につけば一斉に隊士たちの伸びる腕。
「では、なまえちゃんの入隊と新たな仲間を祝して……かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!」」」
居場所、私の
守りたい大切な…居場所
なんて、感動は数十分で終了してしまった。2周目のお酌に回った辺りから徐々に酔いつぶれた皆。てか、お酒弱くないかな?
「隊長」
「総悟でいいでさァ、見たところそんなに歳もかわんねェだろ?」
「たぶん、そうだね」
「(たぶん?)」
「いいね、ここ」
「近藤さんを守るそれが俺たちの役目でァ。御上でも市民でも何者でもねェ近藤さんがこの真選組そのものなんでさァ」
「うん、分かる気がする。何を護って何の為に刀を振るかそれが生きる意味」
「へっ、知ったような口だな」
「その中に、総悟。今日からあなたも入るんだよ?」
「っ」
「何を護るか、何を斬るか。何に怒って、何を許すか…それが何かに属するということ」
「なまえ…」
「何てね、私の……大切な人の受け売りなんだけどね!」
そう言って、笑ったなまえの笑顔は儚げで危うく。それでいて、綺麗だと。柄にもなく感じてしまった。グラス片手にみんなを見つめるなまえはここでない遠くを見つめているふうである。
「俺も、なまえの為に刀を振りまさァ…」
誰にも聞かれることはなかった沖田の言葉は宙に消えていく。
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