ぼくとわたしとあなたの日々

お前のことが

「貴方、今日誕生日だそうじゃない」
 ごつん、と体格に不相応な足音を響かせやってきた人影。凛とした声に少々背筋の伸びる心地を感じながら振り向くと、そこにいたのはなまえだった。
 いつも姿勢正しく品行も方正で、自他ともに厳しくあるがゆえに彼女はあまり小柄に感じない。同じ部隊の女性陣2人よりもずっと小柄で華奢なのにそう思わせないのは、彼女がひどく気丈に振る舞っているからだろうか。――気丈に振る舞う、それはもはやそういう性分なのだろうけれど。俺のほうが年上で階級も高いというのに、まるで上官に接しているような気分になるのが少し面白い。
「おやおや、なまえちゃんたら随分情報通だこと」
「そうね。……よく考えたら、普通の市民はデータベースなんて覗けないもの」
「ここはキツーいツッコミを入れてほしかったんだがなあ」
 確かに貴方の言うことも一理あるわ、そう言って考え込んだ真面目なところは実のところあまり得意じゃない。適度にあしらって適度にかわして、程よく適当な付き合いをここ数年ずっと好んでいたからだ。何もかも真面目に真っ向から受け止められては軽口もそう叩けないしむず痒いし、そして何よりゆっくりと頭をもたげる恐怖心から目をそらすのがやっとでひどく居心地が悪い。
「まあいいわ、とにかくおめでとう。こうして祝えることに感謝しなくちゃね」
 真っ赤な瞳が俺を見つめてくる。上目遣いのくせに可愛いよりは睨まれているような気がするのは恐らくこいつの目つきのせいだろう、大きな目はつっていて俺のものと正反対だ。
 自他ともに厳しく、見た目も相まって誤解もされやすいが、しかしこいつが思いやりに溢れた人間であることはそこそこの付き合いの者なら誰だって知っている。真っ直ぐなようで屈折していて、けれどひどく真面目である。生真面目とでも言えばいいのか、きっと気質や心根の部分はタツミんとこの青いやつ――ブレンダンと近しいものがあるだろう。柔らかさがないぶん上級者向けのきらいはあるが、だからこそ、だからこそ俺はこいつが怖い。
「私も嬉しい。貴方がこうして生きていてくれることが」
 同じ傷を持つ者同士、とらわれれば今度こそ逃げられなくなる。こいつと接するたびにそんな恐怖心と焦燥感が俺の足元を這いまわり、そしていつか喰らわれるのではないかと――

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