ぼくとわたしとあなたの日々

たすまにあ?

「なまえちゃん、本当に変わったよねぇ」
 しみじみと、カップの紅茶を飲み干したサツキが感慨深そうに呟いた。ユノと積もる話に花を咲かせていたなまえが、ほんのりと頬を赤らめる。もごもごと口を動かしては言葉を飲み込むなまえの姿に、サツキはよく回る口を更に働かせた。
「覚えてる? 初めて会ったときのこと。外でアラガミが暴れてるってのに素知らぬ顔でお菓子食べてるんだもん、あのときはどうしようかと思いましたねー」
「もっ……もー! 昔のことは忘れてよー!」
 過去の己を恥じているのか否か、ポカポカとサツキの胸を叩きながら詰め寄った。もちろん力なんてものは入っておらず、じゃれあいの範疇に収まるものだ。豊かな胸がぽよんと揺れる様は、きっと男の視線を一点に集めてしまうものであろう。この場がなまえの自室であり、周りに誰もいないのが、唯一の幸いだっただろうか。
「でも、本当にサツキの言う通り。なまえ、すっごく変わったよ」
 2人のやり取りを楽しげに眺めていたユノが、そっと目を閉じながら告げる。天真爛漫を体現していた彼女が、腰にも届くほどの髪をさっぱりと切り揃え、そして思慮の深い面を見せるようになった。外見の変化はもちろん、180度変わったと言っても過言ではない様に、開いた口が塞がらなかったことは記憶に新しい。
「私は、今のなまえのほうが好き」
 歌姫と呼ばれるに遜色ない、華やかながらも目障りではない笑み。見とれるように言葉を失っていたなまえが、そっとユノの手を取る。細くて柔らかい、女の子の手。守るべき人の、守られるべき人の手だ。
「あたしが変われたのは、ユノのおかげだから。ユノと、ユノの歌があったからこそだよ」
 じっとユノの目を見つめながら言えば、彼女は更に笑みを濃くする。綻ぶような表情は、彼女の歌声のごとく、人の傷や痛みを癒す力を持っていた。
 そのまましばらく微笑みあっていると、置いてけぼりを食らっていたサツキが大げさに溜め息を吐く。肩を竦め、再び紅茶を注ぎ、メガネの奥の瞳はじとりとしていた。
「あっ……もしかしてサツキさん妬いた? 妬いちゃった?」
「えーえー、そうですよー。大人気なく妬きましたとも、すみませんねー」
「ふふ、ごめんね。それじゃあ、今度はこの前、タスマニア支部に行ったときの話するね――」

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