ぼくとわたしとあなたの日々

あの人だけがいない世界

 触れあえたのなんてほんの数日。
 想いを伝えあえたのだってただ一度。
 見つめあえたのは果たして幾度か。
 かわした言葉は何文字か。

 それでも私にとって、あの日々は至上の幸せだった。貴方のために、私は今まで生きてきたの。貴方に会いたかったから、貴方が生きていると信じていたから、今まで這いずってでも前に進もうと思えたのに。
 みんなが笑う。みんなと話す。アラガミを打ち倒す。ご飯を食べる。あぁそうだ、ねえねえ聞いて。私もね、ブラッドになれたんだよ。貴方と同じ黒い腕輪に、貴方とおんなじ偏食因子が私の体に入ってる。一緒だね、私たち。おんなじお母さんからおんなじ日に産まれたんだもん、おんなじじゃないとおかしいよね。
 取り留めもない毎日にすらついて行くのに必死な私は、こうして時折、貴方を想う。お空の向こうに行った貴方は、今頃お父さんやお母さんと仲良くしているのかな。私は、まだそこに逝っちゃいけないかな。……いけないよね。このまま逝ったら、きっと貴方に怒られちゃう。私が貴方について知ってることなんて本当に少ないけれど、それでもこれだけは、なんとなくわかる気がするよ。
 でもねぇ私、淋しいんだ。胸が、痛くて、ちくちくするんだ。こんなことしたかったんじゃない。こんなことになるだなんて、どうしてそんな、ねえ。
「会いたいよ、ロミオ」
 貴方だけがいない世界は、今日も何事もなかったように、私を振り落とそうとする。

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