HoYoverse

君のための宝物

「受け取れよ」

 ぽん、とやさしく投げ渡されたそれを、両手で丁重に受け取った。
 クラフト素材の紙袋はかさりとした小気味良い音を立て、シャルロットのちいさな手のひらのうえで誇らしげに胸を張っている。紙袋はリボンの形をしたモノクロのシールで可愛らしく封がなされており、まるでシャルロットをイメージしたようなあつらえに、じわりと胸が熱くなる。
 どうしてこれを、私に? 所以がわからず何度か瞬きを繰り返していると、ちいさくため息を吐いたナマエが、気だるそうに口を開いた。

「おまえ、今日誕生日なんだろ。ユーフラシアさんに聞いた」
「そうだけど……まさかナマエさんからプレゼントをもらえるなんて、思ってもみなかったわ」
「なんだよ、いらねえのか? じゃあ返せ」
「あっ、ちょっと! もう、そんなことひと言も言ってないじゃない」

 ――誕生日! 確かに今日は4月10日、紛うことなきシャルロットの誕生日だ。出がけに両親から祝われたこともあり、今日がそうであるという自覚こそあったけれど、よもやナマエからプレゼントをもらえるなんて夢にも思っていなかった。こうしてプレゼントまで用意して他人を祝うほど、彼が密接な距離感を築くような人には見えなかったからだ。
 ゆえに、彼という人からもらえたこの紙袋はまるで宝物のようだ。この世界にあふれる「真実」とそう変わらない――否、それらとは比べ物にもならないほど、手のひらに乗るだけのちいさな物品がひどく輝いて見える。
 開けてもいい? そう訊ねると、ナマエはいつもどおりの気だるげな調子で、「どうぞ」とだけ返してきた。

「すごい、ヴェリテくんのリボンと、フィルムがこんなにたくさん……!」

 宝箱をそっと開くと、そこにはシャルロットのパートナーである写真機「ヴェリテくん」のおめかし用リボンと、彼に装填するフィルムがいくつも収められていた。どちらもひどく実用的なもので、スチームバード新聞社の記者として働くシャルロットには願ってもない贈り物だ。
 とくにこのリボンは、シンプルな造りではあれど細かな装飾に作者のこだわりが感じられる――十中八九、あの「千織屋」であつらえてもらったものだろう。何ヶ月も前から予約して、やっと手に入れられたもののはずだ。
 フィルムだって職務には欠かせないものであるし、何よりこのプレゼントを見ると、彼がヴェリテくんをただの写真機としてではなく一人の仲間として扱ってくれていることが伝わってくる。見れば見るほどナマエの愛情深さを感じられて、思わず頬が緩んでしまう。

「ナマエさんっ、ありがとう! これ、今年もらったプレゼントのなかで一番嬉しいかもしれないわ」
「さすがにそれは大袈裟すぎんだろ……」
「そんなことないわよ。なんたって、他でもないナマエさんが私のために用意してくれたものなんだから!」

 満面の笑みで喜びを顕にするシャルロットを見ても、ナマエはやはり難しい顔をしたまま、呆れたようにため息を吐く。いくら目いっぱいの感謝をまっすぐ伝えても、彼から色好い言葉が返ってくることなんてほとんどないのが常だ。
 しかし、シャルロットは知っている。彼のなかに確かな愛情が育まれていることも、ボディガードという職務以上に、自分を守ろうとしてくれていることも。かつて犯した罪に怯えて、必要以上に他人と距離をとり、その手をずっと見つめていることも――
 つれないくせに真面目で、ドライなくせに愛情に満ちた彼だからこそ、シャルロットはひどく好ましく思っているのだった。


シャルロットお誕生日おめでとう、好きです
2024/04/10

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