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きみとの朝

「なまえ、今日はなんとなく嬉しそうだね」
 こくり。かぐわしいカフェオレをひと口飲み下したあと、ダイゴくんが感慨深そうにつぶやく。私は分厚いレンズ越しにどこか力の抜けたようなダイゴくんの目を見ながら、唐突な言葉に彼と相違ないふ抜けた声で返した。
「それは、ダイゴくんもおんなじだと思うけど」
「ボクも? ……ああ、確かにそうかもしれないな」
 焼き立てのあたたかいクロワッサンへ手を伸ばすダイゴくんは、いつものきっちりとしたスーツから開放されたラフな服装に身を包んでいる。柔らかいTシャツに薄手のカーディガンを羽織り、シルバーフレームのシンプルな伊達メガネをかけてクロワッサンに舌鼓を打っていた。頬についた食べかすをぺろりと舐めとる姿は御曹司でもチャンピオンでもなく、ただの年頃の男性だ。
 そしてもちろん、そうやってだらけているのはこの私も同じ。クロワッサンを大口でかじる、煌びやかな世界にはとてもじゃないけどさらせないような今の私は「アイドルのなまえ」とほど遠い姿であるだろう。オシャレはテレビで好きなだけさせてもらえるから、実のところ私生活で見てくれに気を遣うことはあまりない。ダイゴくんはたまにもったいないと言うけれど、でもすぐに「ボクはいつものなまえのほうがいいけどね」と付け加えてくれるから、なんとなくそれでも許されるような気持ちになれる。
「にしても、案外気づかれないもんだね」
「そうだねえ……さすがに店長さんにはバレてたみたいだけど、あの人は気の利く人だからまあ心配ないかな」
「ほかの人にはバレないかな? お店に迷惑かかっちゃうかも」
「大丈夫だよ、ボクもきみもほとんど寝起きだし」
 くつくつと喉で笑うダイゴくんは、リラックスしきった様子で3つ目のクロワッサンに手を伸ばしていた。
 ――ここはトクサネシティの片隅、人もまばらな朝の日常。私は昨夜ダイゴくんの家に泊まり、起きて、そして2人揃ってのなんとなくの思いつきで、眠たい目を擦りながら近所のパン屋さんを訪れたのである。個人経営ながら雰囲気の良いここはなかなか評判のお店らしく、2階部分がカフェとなっているのでゆっくり落ちつくことも出来るのだそう。ボクもよくお世話になるんだよ、そう言ったダイゴくんはどこか眠気が醒めないようなとろけた目で話している。
 そっかあ、なるほどなあ、私も好きになっちゃいそう。そう言えば嬉しそうにレンズ越しの目を緩ませた。
「追加でもう少し買っていこうか、メタグロスたちへのお土産もほしいしね」
「さんせーい!」


×××の幸せごはんはパン屋さんで買った焼き立てのクロワッサンとカフェオレ
#ふたりの幸せごはん
https://shindanmaker.com/706141

20170413
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