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恋の盲目

ちょっとすけべ

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 好きだ、そう言ったとしてこの子はそれを恋とは取らない。
 それはある種の過ちである、そう、ボクが誤ってしまったのだ。何でもかんでも受け入れた、何でもかんでも許した、何でも認めて何でも愛して何でも抱いて何でも笑んだ、それこそがボクにとっての、ボクらにとっての「過ち」。
 なまえはボクを愛さない。否、深く深く愛して求めてくれているだろうことはわかる、けれどそれは「恋」になれない。ボクがずっとなまえを愛してきたからこそなまえはボクを愛してくれる、しかしそこに「恋愛」が紛れることをあの子自身が許さないのだ。むしろ許せないとでも言うべきか、とかくボクらはどうしようもないくらいに拗れてしまった。
 あと10年、せめて5年若ければそれを打破することだって出来たかもしれない。きみが好きだ、狂おしい、恋しくてたまらない、めちゃくちゃにしたい、きみのすべてがほしい、そんな衝動を思いのままにぶつけて彼女を連れ去る未来だって有り得たかもしれないのに。哀しいかな、かたや御曹司でチャンピオン、かたや人気のコンテストアイドル。地位と名誉とボクらを慕う善意がそれを少しも許さない。ボクらはボクらを想う人々のあたたかくも眩しい気持ちにがんじがらめとなっている。
 怖いんだろう、きっと。ボクも、もちろんなまえもおそらく、どこかでなにかに怯えている。見放されること? 捨てられること? いいやそれよりももっと重たくてもっと大きい、けれど鼻で笑い飛ばせそうなほど微かな何かを恐れている。
 だからボクはキスをしない。性行為に至るうえでのいわゆる前戯を与えはすれど、想いを乗せたキスはしない。張り裂けるような胸のうちを誤魔化してあの子を抱くのだ、なぜならボクはひどく汚くてひどく狡猾な、大人の男であるのだから。
 それではない何かを求めるように潤んだあの子の瞳すら、いよいよ見ないふりをして。


title:アメジスト少年「不純を愛するぼくらの純潔なくちづけについて」
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