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きみのこえ

 ふと手に取ったのは携帯電話だった。暗がりのなか、画面のライトが目に刺さってひどく眩しい。目に痛いならやめればいいのになぜだか右手の親指はとまらず、ベッドの上に座り込み、背後の冷たい壁にもたれ、片手に収まる小さな端末を操作してとある名前を表示する。
 そこにあったのは愛おしい幼なじみの名前。今日は午後からオフだと言っていたし、明日も午前はフリーのはずなのでおそらく今も起きているだろう。画面の右上を確認すればもうそろそろ1時をまわるといったところで、彼女でなければ非常識だと怒鳴られるような時間帯だ。けれど彼女はそうしない、決して自分に怒りはしないという自負の部分がダイゴにはあった。――あの子は自分を拒まない、なぜなら長い月日をかけてそうであるように仕向けてきたから。
 ふと、声が聞きたくなった。理由なんてものはそれだけなのだ、会えない日々が続いていたことによる淋しさが少しあったのかもしれない。どうにもあの子が恋しくて、どうしてもなまえを感じたくて、衝動を抑えきれないまま端末を手に取り、しかし最後の最後で今ひとつ踏み出せないまま「発信」のボタンとにらめっこを続けている。
 暗い部屋のなかにある不自然な明かりに反応したらしいダンバルが、ダイゴの元へとやってくる。冷たいけれど体温はある鉛の体をゆっくりと撫でると、ダンバルは小首を傾げるような仕草でダイゴのことを見つめてきた。どうしたの、なにかあったの、気遣うように身を寄せるダンバルをそっと抱きしめ、ダイゴは小さく息をつく。
「大丈夫だよ。……ちょっと、迷っちゃっただけ」
 言いながら、ひとつふたつと操作をして電話を耳に押し当てた。やがて聞こえてくるだろう聞き慣れた声に胸を躍らせながら、ダイゴは小さく目を閉じる。



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