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あたたかい

「た、誕生日プレゼントですか!?」
 今日のご用事が終わったら、プリズムタワーへ来てください。渡したいものがあるんです――シトロンからの連絡を受け、光の速さで仕事を終わらせて駆けてきた#ナマエ#を迎えたのは、どことなくそわついたシトロンと、彼から贈られた、予想外にも誕生日のプレゼントだった。
 丸メガネの向こう側にある瞳を大きく見開いて、#ナマエ#は歓喜の声を上げる。白い手に乗せられているのは件のプレゼント――緑のサテンリボンでぐるぐる巻きにされた、得体の知れない球体だ。完璧だろう中身の設計とは打って変わって無様なそのラッピングもどきからは、送り主が男の子であるという証左や、彼が発明以外は明るくないことを感じさせる。不慣れながらすべて一人で行なってくれた、優しくてあたたかな気遣いも。
 優しいピンクの球体は、#ナマエ#の両手のひらで余裕で包めるほどに小さい。モンスターボールよりひと回り大きいといった程度だろうか、まじまじと見つめるそれは#ナマエ#の持つはなぞのビビヨンのカラーリングを一段薄くしたような色合いだ。当のビビヨン――ビヨンセも興味津々といった具合に球体と戯れるように飛んでいる。#ナマエ#が再びシトロンに視線を移せば、彼は照れくさそうに頬を掻いた。
「ぼくにはこれしかありませんから。#ナマエ#さんが喜んでくれたらいいなって、頑張りました」
「はええ……」
「はえ?」
「は、アッ、いえ! え、ええと――」
 #ナマエ#は小さい子供が好きだ。ロリータコンプレックスと正太郎コンプレックスを同時にこじらせている性分ゆえ、シトロンやユリーカの一挙一動に心臓発作を起こしそうになる。イエスロリショタ・ノータッチの信条を掲げる人間ながら、彼を異性としても意識している彼女からすれば、シトロンが自分のためを想っての行動も、プレゼントも、そしてはにかむような表情も、そのどれもが思考回路をショートさせる劇薬なのだ。
 蕩けそうになった脳内をなんとか働かせて、シトロンにこの発明品の詳細を訊ねる。何のために使うのでしょう、どんな機能があるのですか、そう早口に問えば、シトロンはどこか誇らしげに胸を張った。
「これは、#ナマエ#さんの私生活をサポートしてくれるマシーンなんです」
「私生活……ですか?」
「はい! たとえばお部屋が汚くなったとき、この子にひと声かければ綺麗に整理整頓をしてくれます」
「うっ」
「それとか、研究に没頭なさると栄養管理もなおざりになってしまうでしょう? そういうときにも助けてくれるんです。不足していると思しき栄養素などを感知して、摂るべき食材を導き出します」
「ううっ」
「栄養管理といえば、#ナマエ#さん甘いものがお好きだから。間食が増えすぎたらアラームでお知らせします! 糖分は脳の動きを活性化してくれますけど、何でも摂りすぎは良くないですからね。体を壊しちゃ元も子もないですし」
「ううう……!」
 ――眩しい! それが#ナマエ#の素直な感想だった。
 シトロンの眩しさや純粋さにより叩きだされるおのれの自堕落に首を吊りそうになりながらも、つとめて普段通りの自分を演じる。衝動のままに息を荒げてしまいそうなところなのだが、彼の幼気なところを愛しているだなんてことが知れたらこのミアレを、もしかするとカロスからも追放されてしまうかもしれないのだ。くれぐれも目立ったことはするな、出来るだけ静かに生きろ、おのれの欲望に打ち勝て、そんなことを同期の二人にも兄にもキツく言いつけられている。そもそもこれは自分だけの問題ではなく、師事しているプラターヌ博士にだって迷惑をかけるかもしれないのだから――
 今にも気を失いそうな頭を冷やし、腹の底に力を入れて、#ナマエ#はシトロンの目を見つめる。空よりも淡く澄んだスカイブルーと見つめあいながら、いつもどおりに笑ってみせた。
「ありがとうございます、シトロンくん! あたしすんっごく幸せです、今までで一番の誕生日って言っても過言じゃないですよ」
「あ――ほんとですか? よかった……」
「はい! それにこれ、よく見たらビビヨンの色なんですよね? 良かったねえビヨンセ、お揃いですよ」
「そうなんです、#ナマエ#さんといえばビビヨンだから。作るって決めたときから、この色、離れなくて。――ぼくの、大好きな色ですもん」
 だんだんと尻すぼみになってゆくシトロンの声。懐かしむような、熱っぽいような、友愛には決して留まらない目を細めながら、彼はビヨンセを見つめている。その視線をゆっくりと#ナマエ#のほうへ移しはすれど、おのれを律することに集中するあまり彼女にその声は届ききっていなかったようで――それもやむなしとシトロンは笑う。まだまだ二人の進展は遠い。
「改めまして、#ナマエ#さん。お誕生日おめでとうございます!」

夢主の誕生日V2でした。
意図せずしてシリーズっぽくなったのでなんかそういう感じで(?)
20171216
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