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あなたのために

「エレザード、そっちのネジ、とってくれるかな」
 言われた通りの部品を手に戻ってくるエレザードをひとなで。一瞬ながらも柔らかく浮かべられた笑みは、しかしすぐにきらりと光るレンズの向こうに隠された。愛おしいパートナーへ向けていた視線を再び鉛の山へと戻し、そしてゆっくりとスパナをまわす手つきはどこか浮ついているように見える。
 別に彼の気が抜けているとか注意不十分とかそういうった話ではなく、例えるなら少しだけそわそわしている、といった具合か。それはおそらく頭に思い浮かべている人間に影響されてのことで、どこかはやるようにパーツを手繰る様子からもなんとなくの理由が見て取れる。
 だがしかしそれでも真剣な姿勢や緻密さを欠かないところは流石ミアレの天才少年と呼ぶべきか、着々と彼の発明は思い描く形を顕してゆく。まあるいフォルムは女性が好ましく思うピンク色で、ちょうど彼女――日頃よく世話になっているまあるいメガネの少女――の連れているビビヨンによく似たものだったけれど、あまりぎらついた色調でないのは贈るべき相手を思ってのことだろう。もちろん見た目だけの問題ではなく、この小さなボールにこめられた多彩な機能はそのどれもが相手のため、いわゆるオンリーワン仕様なのだ。
 まずひとつはお掃除機能。研究に没頭するあまり部屋の管理まで行き届かない、研究職あるあるの悩みを解消するためのもの。
 またひとつは健康管理、前述のものと同じく不摂生になりがちな体調面も全面的にサポート出来る。
 そしてそれに付随する、特殊なセンサーにより間食が増えるとお知らせしてくれるお目付け機能。彼女が行き詰まると甘味を摂ってしまう悪癖を持っていると知るからこそのポイントだろう。
 ほかにもありとあらゆる便利な機能をこの小さなボールひとつに凝縮して設計できる、その類い稀な頭脳と技量を惜しみなく注いだ一品が、今まさに完成の時を迎えようとしている。
 早く会いたい、けれども決して焦らないで。急ぎはすれども手元を狂わせることなく、喜ぶ顔が見たくとも不完全なものを届けることがないように。そのひとつひとつに願いと想いを込めて、人が笑顔になれる発明が出来るように。
「なまえさん、喜んでくれるかな」
 そして、他でもない彼女への最高の誕生日プレゼントとなるように。
 よし、と小さくガッツポーズを見せ、シトロンは最後のネジを力いっぱい締めたのだった。

夢主の誕生日でした
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