細氷に光る懐刀

寒さと熱さ

「お前を迎えに来たんだ」
 そう言って微笑うディミトリは寒さで鼻を赤くしていて、肩にはちらほらと降ってきた雪がいささかではあるが積もっている。フェルディアでの積雪は特に珍しいことでもないが、それにしたって一国の王がこんなところに立ち尽くして待っているとは一体どういうことなのか。ウィノナは今にも漏れそうな文句をなんとか飲み下してディミトリへと駆け寄る。城門にもたれ掛かるように立っていた彼が身を起こすと、途端にバラバラと音を立てて雪のかたまりがいくつか落ちた。
「本当は城下のほうまで行きたかったんだが、それはドゥドゥーに止められてしまって」
「当たり前でしょうが……! ああもう、こんなに頬が冷たくなって」
「はは……本当だな。ならお前にあたためてもらおうか」
 のんきに笑っているディミトリはウィノナに会えて嬉しいという気持ちを少しも隠すことなく、もはや愚直と言うに相応しいまっすぐな愛を向けてくる。彼が犬であるならば、きっと大きなしっぽをぶんぶんと振って喜びを露わにしていることだろう。
 やるせなさやもどかしさを抱えたウィノナが何かを言うよりも早く、冷え切った大きな体は彼女をぎゅうと抱きしめてくる。こうなってはもはや抵抗する道など残されておらず、ウィノナにはもう、この大きくも幼子のような夫の背中を優しく撫でるくらいしか出来なかった。
「もう……あなたって人は」
 しばらく彼女を抱いて満足したのか少し緩んだ拘束のあいま、ウィノナはディミトリの頬に手を添えて「ただいま」の代わりに口づけを落とす。視察のたびにこれでは彼に風邪を引かせてしまうと思いながらも、愛おしい人がこうして子犬のようなすがたで迎えに来てくれるこの瞬間に、ウィノナは「しあわせ」を感じてしまうのであった。
 二人が城の中へと足を運ぶのは、甘ったるい空気に耐えかねた騎士団長の咳払いが聞こえてからのことである。



ディミトリと×××へのお題は『なんでここにいるの馬鹿』です。
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2020/10/07
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