7日目
「フリハタくんもう行きますよ。」
「あ、うん。」
さっき閉会式が終わった。
俺ら誠凜も支度を終えて帰る。
長いようで短かったウィンターカップが終わった。
「………。」
結局告白した後一度も赤司には会わなかった。
会いたいときには会えないものなのか、それとも避けられていたのか、
避けられていたのならそれが答えなのかなやっぱり。
まあ、あの赤司が付き合ってくれるなんて最初っから有り得ない話だし分かっていた。
分かっていたんだ。
だから、
最後に赤司に会いたいなんて、
思うのは些か我が儘で、
無理な話で、
そんなことは解ってる。
「もう、会えないのかなぁ…」
空に向かって呟いてみた。
返事なんて返って来るわけないのに。
「誰に、会えないんだ?」
「………え、」
「誰にもう会えないんだ?」
思いっきり振り返った。
思いっきり過ぎて少し首が痛かったけど、そんなの全く気にならなかった。
振り向いた俺の視界に映った鮮やかな赤、
「あ、かしくん…!?」
信じられなくて、でも嬉しくて、うわ、俺って自分で思ってた以上に赤司のこと好きだったのかもなんて、
もうパンクしそうな位の色んな感情がいっぺんに押し寄せてくる。
「…大丈夫か?」
お陰で赤司に心配された。
でも戸惑った赤司の顔が見れたからいっか。
「だ、だだだ大丈夫だよっ」
……声が上擦った。
「…ぷっ、あはは、相変わらずだな……おじゃまくんは」
「えっ、」
おじゃまくん…に戻ってる。
というか、どうしよう赤司が笑ってる。ドキドキして止まんないんだけど…!
「僕に告白してきたくせに。」
未だにクスクスと笑いながら言ってくる。
「うっ…えっと、ごめん…?」
「何で謝るんだ?」
「やっぱ…迷惑だったかなぁと、思って」
赤司の笑い声が止まった。
思わず俯き加減になっていた顔を恐る恐る上げる。
「ぅへえっ!?」
上げた瞬間デコピンされた。結構痛い。
「馬鹿か。」
でこを押さえて痛みに耐えているとそっとその上に赤司が自分の手を置いた。
「迷惑だと思っていたら君とこうして会ったりなんてしないよ。」
ゆっくりと俺の手の上からでこを撫でた後、じっと見詰められる。
「僕も、君が好きだ。」
見詰められた俺はというと、
赤司が言った言葉がすぐに理解出来なくてポカーンと固まっていた。
「………。」
「………。」
「…いてっ!」
固まったままの俺にもう一度、今度は鼻にデコピン…いや鼻にされたからハナピン?をしてきた。やっぱり痛い。
「何時まで固まっているつもりだ。」
「ご、ごめん…信じられなくて…」
「………。」
「あっ、違うんだ、まさか赤司くんが俺なんかを好きって言ってくれるなんて思ってなくて…嬉しくって現実味なくって夢みたいで…だから…えっと、…あれ?」
赤司がちょっと悲しそうな顔をしたから慌てた。
自分で何言ってるか何が言いたいか全然分かんない。
「だから…だから…ええっと、赤司くん俺と付き合って下さい!」
「………。」
「………。」
何で俺はさっき返事を貰ったのにまた告白してるんだろう。
流石の赤司も無言になってるよ。
うわ、凄い恥ずかしい。
「…さっきも言ったけど…僕も君を好きだからいいよ。」
「…うん、そうだよねごめん、でもありがとう…すごく、嬉しい」
へなっと情けない笑顔になっちゃったけど、どうしても直せない俺の顔を見て赤司が一瞬驚いた様に目を見開いたかと思うと効果音が付きそうな勢いで顔が真っ赤になった。
「〜〜〜、な、さけない顔…」
そう言ってふいっと顔を背けられる。
その仕草に思わずキュンとする。凄い…可愛い…!
今俺すっごい幸せなんだけど。
「赤司くんこれからよろしくね」
「ああ…よろしく。」
そう言って赤司が微笑んだ。
赤司が、初めて、俺に、向かって、微笑んだ。
「〜〜〜〜ッ!!」
「っ…!?」
感極まって赤司を抱き締めた。
だって赤司の笑顔があまりにも可愛かったからしょうがない。
「ちょっと、ここどこだと…」
どこだってもう知らない。
俺らしくないかもしれないけどとにかく今は抱き締めさせてほしい。
というか今赤司から離れられないし離したくなかった。
「……知り合いに見られたらどうするんだ。」
どうするんだろう、もう言っちゃえばいいんじゃないかな?
俺ら付き合うことになりましたって。
…って…ん?
知り合い…?
一度赤司から離れた。その代わり手を握ったらちょっと赤くなったけど握り返してくれた。嬉しい。
じゃなくて、
「…俺、帰る所で誠凜の皆といたはずなんだけど」
周辺を見渡してみても皆いない。
「僕が見たときには君しかいなかったが…」
「俺…もしかして置いていかれた…?」
「………。」
♪〜♪〜
突然赤司の携帯が鳴る。
どうやらメールだったみたいだった。
「いいか?」
「え、うん。」
案外赤司は律儀なのか俺に断ってから携帯を操作してメールを確認した。
そんな赤司を何も言われないのを良いことにじっと見続けていると
赤司が無言で申し訳なさそうに握っていた手を動かしてちらりと俺を見たた。
見すぎてしまったかと謝ろうとしたらずいっと携帯の画面を向けられたから必然的に目がそっちにいく。
画面にはメールが開かれていた。
――――――――
黒子テツヤ
Re:フリハタ君に伝言よろしくお願いします。
今日はもう解散しました。明日も部活休みだそうです。
――――――――
「だそうだ。」
「……これ。」
黒子にバレてない?何で?
てか、俺に送ろうよそれ。
と思った所で自分の携帯をガン無視してたことを思い出した。
急いで出すとメールが3件来ていた。3件とも黒子だ。
最初の2件は赤司へのメールと同じような内容だった。
3件目は
『マジバのバニラシェイク奢れ。』
だった。
今日の分だろうから今度奢らなきゃいけない。
まあ、でもお陰で赤司とこうして付き合うことにもなったわけだし、
マジバのバニラシェイク位なら安いものだよなぁ。
「テツヤは相変わらずの様だな。」
3件目のメールを見て赤司が可笑しそうに笑った。