5日目 下
「降旗!!」
「はいぃぃっ!?」
ああ、俺赤司に恋しちゃったんだなぁ、自覚したら何かもっと好きになったかもどうしよう。
なんて思っていたら後から怒鳴られて反射的に姿勢を正して返事をしてしまう。
そんな俺に近付いてくる気配がする。
後ろは振り向かなくても声で誰だかは分かった。
「降旗、何故逃げた?やっぱり僕にストーカーしてたのか?」
苛立たしげに吐き出された言葉に怖じ気づきそうになる。
まさか追いかけてくるとは思わなかった。
というか予想以上に怒ってらっしゃるんですけど。
どうしよう。土下座程度で許される気がしない。
「降旗」
何も喋らない俺に痺れを切らしたのかシャキーンという音と共に名前を呼ばれる。なにそれ怖い。
でもこれでまた黙ってたら確実に危険だろうからというかやっぱりストーカー疑惑を否定したいから俺は振り返らずに口を開いた。
「…ストーカーじゃないです。」
「だろうね。」
ばっさり切られた。
聞きたいのはそこじゃねぇんだよってことですか。ですよね。逃げたことですよね。
すいません。後ろでシャキンシャキン鳴らさないで下さい。めちゃくちゃ怖いです。
「ちょっとトイレに…」
「………。」
やばい。後ろからの威圧感やばい。怖い。
でもなんて言おう、
赤司くんのこと自覚しそうになって逃げた?
とか?
いや違うのかな、あの時はまだ違和感みたいな感じで…
…ってあれ、俺赤司に本当の事言う気なの?
それって確実に引かれるくない?
うわー、どうしようか。
これ嘘言っても本当の事言っても死亡フラグしかないよね?
ぐるぐると考えているとさっきまでとは違って少し聞き取りにくい声が聞こえた。
「そんなに、僕が嫌いか。」
「えっ、」
思わず振り返った。
本当に突飛なことばっか言うから
「何言ってんの?」
って思った。
「は?」
「え?」
思っただけだったのに言ってた。
何言ってんの?って言ってた。ビックリだね。
「は?」
ちょっ、顔!顔怖い!怖いですすいませんごめんなさいぃいいいい!
反射的に土下座した。
「土下座とかいい。
立て、もう怒らないから、早く理由を教えろ。そして死ね。」
うん、最後が怖いかな。
でも悪いの全部俺だし、仕方無いか。
もう本当の事言おうか。
どうせなら当たって砕けよう。
「赤司くん」
「なんだい。」
ドキドキと忙しなく動く音が煩いくらい聞こえる。
一度深呼吸をして赤司の赤と黄色の瞳を見る。
「俺、赤司くんが好きみたいなんだ。」
赤司の目が大きく見開かれる。
まあ、突然同性から告白されて驚かない人なんていないよね。
「突然言われても困るよね、ごめん」
「…いや、そんなことはないよ。
大体、悪いけど信じられない。」
「………。」
ちょっと、いやかなりグサッときた。
結果マジにやったんだけどな俺。
「君が僕を好きになる要素が皆無なんだが?」
「…それ…自分で言うの?」
もう、何か泣きそうなんだけど。悲しくて。
「君があまりに僕を怖がるからだろう。」
「初対面の印象だよ。あんなの見たら怖いよ。」
「なら、」
「でも好きだよ。」
吹っ切れた今の俺に怖いものなんかない。もうどうにでもなれ。
じっと赤司を見れば赤司が何か言いたげに口を開いて
けど何も言わずに閉じた。
「赤司くんが嫌なら断ってくれていいよ。でも、
……俺の気持ちまで否定しないで」
最後の方はちゃんと言えたのか分からなかった。
でも、思ったまま言ったつもり。
分かったばっかりで自分でも分かってなかった部分もあるけど、
これが俺の気持ち。
「……僕は戻るよ。」
くるりと後ろを向くと来た道を歩いていく。
俺は段々と小さくなる背中が見えなくなるまで目を放せなかった。