アガパンサス(降赤)
赤司君に会ったのは本当に偶然だった。
親に頼まれて嫌々ながらに行った買い出しの帰りのこと。
鮮やかな赤が視界の隅に入り込んだ。
振り向けばそこには公園のベンチで一人、ポツンと座っている赤司君がいた。
驚いて暫く凝視してしまったけど赤司君がこちらに目を向ける素振りは全く見せなかった。
それを良いことに俺は赤司君を少し観察してみることにした。
暫く眺めていると、不意に赤司君がくしゃみをした。
手でおさえてくちゅん、と小さなくしゃみをする赤司君は何時ものような威圧感がなかった。
「あの、」
だから、話し掛けた。
何時もの俺ならしないかもしれない。
でも、ビビるとか以前に話してみたいと、
そう思った。
「これ、要りますか?」
急に話し掛けられてキョトンとしている赤司君に寒そうだったから
さっき自分用に買った肉まんを差し出した。
そんな俺を見て怪訝そうな顔をする。
まぁ、確かに急に知らない奴に 話し掛けられて肉まんを差し出されるこの状態を怪訝に思わない方がおかしい。
「君は、確か誠凛の人だよね、」
暫く黙っていたと思うと赤司君にそう言われてピシリと固まった。
俺の事なんて覚えてないだろうとたかをくくっていた。
まさか、俺の事覚えているなんて…
急にどっとかいた嫌な汗が首を伝った。
この状況はどう対処すれば正解なのか、
俺は赤司君と話したいとか思った数分前の自分をぶん殴りたい衝動に駈られながらも脳味噌をフル回転させた。
「そんなに焦る質問をしたつもりはないのだけど」
脳味噌をフル回転させたにもかかわらず残念な俺の脳は何も考え付かなかった。
お陰でひたすら黙ったままあわあわしていた俺を見て少し困った様な、悲しそうな表情をした。
「えっ、あっ、ごめんっ、違うんだっ」
俺は赤司君にそんな表情をしてほしかったんじゃないんだ
思わず言ってしまいそうになった言葉をギリギリで抑え込む。
こんなこと言ったらまた赤司君に怪訝そうな顔をされてしまうかもしれない。
「覚えられてると思わなくて少し驚いちゃて、俺普通だから」
頬を掻きながら苦笑いして誤魔化す。
そんな俺を赤司君はじーと見てくる。
ベンチに座っている赤司君と立っている俺。必然的に俺からみる赤司君は上目遣いになる。
彼に見られて動悸が上がる。
「ところで…肉まん潰れてるけど、」
「えっ、」
そう言われて自分の手元に目をやると、
明らかに最初より平たい袋が目にはいった。
「うわぁっ、マジだっ!」
急いで中身を確認するとぐちぁ、といった効果音が聞こえてきそうな状態になっていた。
こんなにまでなっても気づかなかった俺って…
「ふふっ」
狼狽えていると前から控えめな笑い声が聞こえた。
見ると赤司君が笑っていた。
思わず見いっていると、
「ああ、すまない。
降旗君が1人百面相をするものだからつい、」
クスクスと綺麗に笑う赤司君に自分の体温が上がったように思うのは多分気のせいじゃない。
そのくらい赤司君は綺麗だった。
「…ん?」
笑っている赤司君に気をとられてスルー仕掛けたけど…赤司君今俺のこと名前で呼ばなかった…?
「あ、あの…赤司君今俺のこと名前で呼んだ?」
「そうだが?」
「えっ!?なんで!?」
「降旗君海常と誠凛の試合に出ていただろう」
「あ、あれ観て...!?」
「観ていたとも、勿論君の活躍も、」
一度句切ってからにこりと笑う。
「あれは目立っていたよ」
「っ!!!」
かぁぁっと顔が熱くなる。
恥ずかしい。
けど、それ以上に赤司君の笑顔に目が離せなくなる。
「ふふ、恥じる事はないよ、あれはあれでいい働きをしていた。君のゲームメイク僕は嫌いじゃないよ。まぁでも、」
一旦そこで切ると、赤司君がすっと俺を指したと思うと意地悪そうに笑う。
「もう少し度胸は必要かもしれないね...でないと僕らと対等に戦えないよ...?」
そう言って指していた手を下ろしてそのまま俺の手の中にあった肉まんだったものを取ると、ベンチから立ち上がった。
「僕はそろそろ帰ることにするよ、時間を取らせて済まないね。これ、ありがとう。」
ぽけっとしている俺に赤司君は肉まんを少し持ち上げて俺に笑ってくれた。
「今日はありがとう降旗君。楽しかったよ。良かったらまた話したいな」
そう言うとくるりと背を向けて歩いて行ってしまった。
「......うっ、わ...ぁぁぁ 」
赤司君姿が見えなくなってからその場でしゃがみ込む。
顔がすっげー熱い。
し、ドキドキする。
不意に握り締めた手はさっきまで握っていた肉まんの熱で温かかった。
*アガパンサス
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降赤は個人的にほのぼのとした感じが好みです(*´∀`*)
降赤かわいいです。
※アガパンサス→花言葉:恋の訪れ