03 知ることについて


「歩きにくい。」

草が生い茂る(しかもデカイ)中、歩いていくのははっきり言ってしんどい。

馴れてないからかなぁ。

「ここら辺は得に草木が大きいからなー、言わばジャングルみたいな感じの。はっきり言って俺だってこんなクソ歩きにくい所なんてもう歩きたくないよ。」

「クソとか言うなよ、チェシャは慣れてんじゃねーの?」

「さぁ、まともになんて歩いたこと無いし、ここら辺はあんまり誰も来ないしね」

そんな会話をしていると前に道らしき、と言っても勿論アスファルトとかじゃない。
草とかが無いだけ。
まぁ、それでも十分道と言える道に出た。

「やぁっと出たかぁ〜」

そう言うとチェシャは近くに適当に座って休み始めた。

本当に疲れたらしい。

俺より体力が無いとは…軟弱者め。

「あー、疲れた森澤くんももうちょっと来る場所考えて来てよー」

「は?場所とか自分で決めれんの?」

「だって鍵持ってるじゃん。」

「ん?じゃあやっぱこの鍵のせいでここに来たのか?」

「え、そうだって言ったじゃん。」

「え、いやいや言ってないし。」

何マジで驚いた顔しちゃってんのこいつ。

「この鍵が重要なんだろうなぁとは思ったけど…詳しい事は1つも言ってくれて無いじゃん。
てか、よく考えれば詳しいどころか何も教えてもらってない気がするんだが?」

そうだ、全部あやふやにしか言ってないじゃんコイツ。

………あれ?
コイツに着いてって大丈夫か俺?

「…疑ってる?」

顔に出ていたのか俺の顔を見るとそう尋ねてきた。

「まぁ…その」

「いいよ、疑ってくれても。別に君をどうこうする気は無いから。」

「…ただ君を帰したいだけだし…ね、」

にこり、と笑ってはいるがさっきまでとは違う真面目な雰囲気を纏わせたまま聞こえるか聞こえないかの声でぼそり、と呟いた気がしたが聞こえなかった。

「…そろそろ体力も戻ってきたし、行くとしよーか、」

何て言ったのか聞こうとしたところでさっきまでのシリアスな雰囲気を消してまたへらりとふざけた様に笑って立ち上がって歩き始めた。

「ちょっ……俺休んでないんだけど」

「あれ?休みたかったの?」

「いや…」

「なら良いじゃん」

「むぅ…」

チェシャだけ休んでってのも気に食わないけどそれよりまたはぐらかされたのが更に気に食わない。

「休まなくていい。
けど…教えろよ、この世界とか、チェシャの事とかそんなのは聞かない。でも少しくらい、鍵のことだけでも…」

「なんだかなぁ」

俺の言葉を遮る様にチェシャが口を開く。

でもなんだかなぁって何だよ。

「そんな顔しないで、ほんと君は顔に出やすいなぁ、わざと?
まぁ、いいや。なぁ森澤颯人くん。」

「な、何だよ…」

突然のフルネームになんだなんだと身構えながらチェシャを見ると笑ってる癖になんだか面白くなさそうなオーラを出していた(様な気がした)。

全く変に器用な奴だ…。

「無闇やたらに知ろうとする事は凄く危険な事なんだって知ってた?」

そうめんどくさそうに切り出す。

「なぁ、本とか映画とかドラマとかアニメとか物語の主人公ってさ、大概無駄に色々知ろうとして、無駄にそこら辺に足突っ込むんだよね。
でもね知ってる?
相当ぐれてるか何かの作者じゃない限り主人公ってのは死にそうになったって死なないんだよ。しかも大概何でも出来ちゃったりすんだよねー何でも出来てしかもある意味不死身。凄いよね。」

そこで一旦切るとこっちに歩いてきて俺の前で止まった。

「……ねぇ森澤くん、君はさ、どうなんだろうね…?」

とん、と軽く当たる程度に俺の胸を叩く。

いつの間にか無表情になっていたチェシャと目が合う。

ふざけた笑顔で分かりにくかったが意外に整っている顔立ちをしているからか無表情だと何だか迫力がある。


「ぉわあだッ!?」

俺が何も言えずに押し黙っているとピンッとデコピンされた。

でこがヒリヒリする。

「…ぷっ、はははっ変な声」

突然デコピンしてきたくせに笑うなんて…なんて奴だ!

「なっ!急にしといて…ッ!」

「ははっ、やば、地味にツボった!」

あまりにチェシャが爆笑するもんだから何も言えない。
怒る気も失せる。

「あははっ、はー、苦しかった。」

「そんな笑うからだバカやろーめ。」

「うん、ごめんな?俺真面目な雰囲気苦手なんだよ。」

お前が言うのか。

と意味を込めてのじと目をする。

「本当にごめん、あれは俺が悪い、変なこと言った自覚はあるよ。
取り消し、とかそんな都合のいいことなんて出来ないだろうけど、でもこれだけは言わせて欲しい。あr…むぐッ!?」

おっとしまった。
真面目に謝ってるのにこれだけは言わせて欲しいとか言われたから相手の口をおもっきし塞ぎにかかってしまった。

「あ、えーと、仕返しな、さっきの言い様の。」

「………え…。」

一瞬驚いた様な表情をしていたがその後笑顔に戻っていたからとっさの返しではあったけど相手の反応からしてどうやら誤魔化せたっぽい。

「やっぱり違うなぁ」

突拍子もなく突然そんなことを言うと

「ありがとう、森澤くんは優しいな。」

と笑った。
というか、微笑んだ。に近いかった。
女子ならイチコロだろういけめんすまいる?だったが残念だったな、俺は男だ。

「…鍵のことは、歩きながらにしようか。」

「!教えてくれるのか!?」

「うん、鍵のことくらいなら大丈夫。でもそれだけね。」

「分かった。」





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