皆が皆俺を振り返った。しかしどんなに言葉をかけられても首を縦にはふらなかったし、どんなに手をひかれてもその手を振りほどいた。何故ここまでこのこどもに執着するのか俺自身もよくはわからない。最後尾のクロウは言った。「死ぬぞ」「わかってる」「…そうか」会話はこれっきりだった。15人ものこどもで溢れていた部屋は、随分さみしいものになった。俺は南のこどものとなりで泣いた。ずいぶんと久しいものだったので、どうすれば止まるのかさえよくわからない。そろそろ体内の水分が蒸発しきって死んでしまうかも知れない、そう思ったとき凛とした声が響いた。「ぶざまですね」南のこどもの口が開いていた。「起きたのか」「…おかげさまで」「でももう遅い」日は完全に落ちていて、外はすでに墨をこぼしたような真っ暗闇だった。その中に俺達ふたりだけが取り残されている。もう全てが遅かったが、しかし、不思議と後悔はなかった。「…あなた、名前は」「今はコヨーテと名乗っている」「本名ですか?」「…本名は捨てた」そうですか、と南のこどもは素っ気なく言った。「お前は」俺はずっと抱えていた疑問を口にした。「目が、見えないのか」ほんの一瞬の間のあと南の子供は長い髪を揺らして笑った。しかしやはりとじられたままの瞼が上がることはなかった。「右の眼球はありません。左はなんとか光を視認できる程度です」くすくすとかすかな笑い声だけが響く空間で、俺だけが何が面白いのか理解できなかった。「私にはあなたの形は見えても、あなたの姿は見えない」そう言う南のこどもは、何かすべてを馬鹿にしているようにも見えた。「…お前は、なんであんな場所に倒れていたんだ」とりあえずここからはすぐに離れなければいけない。担ぎあげたその体重は軽かったがしかし、毎日を空腹に過ごす孤児のものではなかった。「それは」南のこどもは一息をおいたあと、また笑った。「…私が南の指導者の縁者だからと言ったら、あなたはどうするんでしょうね」その笑いが俺に向けられたものだったのか、それとも彼自身に向けられたものだったのか、俺にはわからなかった。
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