「俺は君が嫌いだよ」
ミストレは結い上げた髪にゆうらゆら指を通しながら言った。
「エスカ・バメル。君が随分憎らしいんだ」
使われていない教室に連れ込まれ言われることがこれか。これでは一般校でよくあるらしい女子の虐めと同じではないか。ミストレーネ・カルス、見た目も女ならば中身も女(それも相当厄介なタイプの)なのか。とエスカバは電気のともっていない暗い教室の隅の隅で、小さく溜息をこぼした。
「ほら、それだ」
その途端ミストレは眉間に皺を寄せてぼやく。形の良い唇から流れるように出る文句を、エスカバは右から左に受け流すことも出来ない。何故って、顔がずいぶん近い。
「ンだよ、」
「つまり君の」
やっと出ようとした文句さえ押さえ込んで、ミストレは宣言した。
「その余裕が気に入らないんだ」
エスカバは理解に苦しむという意を精一杯に込めて、「はァ?」とだけ言った。その仕種にミストレはまた苛々とする。
「この俺に呼び出されて慌てもしない。このミストレーネ・カルスに!俺を知らないのかい?いや知らないわけがないね。だって俺はミストレーネ・カルスだもの。それに、君はエスカ・バメルだ」
「アンタが何を言いたいのか俺には理解できない」
「つまり」
ミストレは妙に芝居がかった口調で続けた。
「俺を愛さない君が心底気に入らなくてまさに虫ずが走るような思いだ」
エスカバはあまりに馬鹿馬鹿しいその発言に一瞬めまいを覚えた。こいつはおかしい。そう心の内で決め込んでもうここを立ち去ってしまおうと思った。細い肩を無理矢理押し退けようと手をのばす。抵抗もなくそれはすぐにエスカバの前から動いた。
「行くのか」
「俺も暇じゃないんだ」
「そうか」
僅かな機械音をともなって開いた扉に身をすべらせる。早くここから出ようと急ぐエスカバの腕をミストレは強い力で引いた。
「暇じゃない君の時間を一瞬でも独占できて嬉しいよ」
耳元でささやかれた言葉に背筋がふるえた。「またね」の言葉とやわらかな笑い声を残して立ち去ったミストレの背中をエスカバはじいと見つめるしか出来ない。厄介な奴に目を付けられたもんだと、エスカバはその日二回目のため息を吐いた。

君の首がほしい
(ミストレとエスカバ)
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