「お前なんかいらない」
ローランは冷めたブルーの瞳をもってしてロニーにそう言い放った。午前3時のことである。ロニーは一瞬をぽかんとやり過ごして、それから力無く笑った。
「そう?」
季節は冬を迎えようとしていた。二人のいる寝室は冷たい空気ばかりを持て余している。その日二人は何と無く一緒にいて、何と無く同じベットに入った。仕事の関係上今ではロニーの住居と言っても過言ではないホテルの最上階のスイートルームで、二人は身を寄せ合って眠った。まっさらなシーツの波が抱える熱がずいぶんとひややかなものだったことに気付いていたのはローランだけだろう。小綺麗な一室にロニーのかけらはほんのひとつぶもなかった。
「お前は透明人間だから」
「うん」
「俺にはお前が見えないから」
「うん」
「お前なんかいてもいなくても一緒」
「そっか」
どこまでも単調とした会話は時刻と合間って二人をねぼけているようにも見させたがしかしそんなことはなかった。どんな汚濁も受け入れ嚥下しなおも笑うロニーにローランは苛々とする。いい子ぶって馬鹿じゃないの、いつか浴びせた罵言に彼はこう答えた。「だって俺、いい子じゃないから」それならそうとこの馬鹿みたいな会話に同じ罵言をもって終止符を打ってくれよ、とローランはいくらも思ったがそれはかなわない願いだった。こんなときまでいい子ぶってさ、馬鹿じゃないの。言いかけた言葉は結局咽に詰まって戻りも行きも出来ない。いい子すぎて透明になってしまったロニーは可哀相だと思う。ローランは見えない彼を思って鳴咽に変わった罵言を吐き出した。

透明人間
(ローランとロニー)
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -