捏造


ぱぱぱと真っ赤なまるが、ほこりひとつない床を汚す。同時に産まれ『落ちた』それは、文字通り飛ぶことも出来なかった。

精神病院みたく、ただの真っ白な箱だったここが、今じゃ嫌に懐かしい。たったひとつ主張する色を持っていたボクはしかし、その新しい色に飲み込まれてしまった。気付けばボクは、部屋だって、ひどく真っ赤だったのだ。真っ赤な箱の中で真っ赤にはいつくばるボクを見るのは楽しいだろうか。色のない眼球はどれもこれも無感情にボクを見ていた。

ぐずぐずと腹の中で奴らはうごめいていて、何度もえずいては出し、えずいては出し、を繰り返す。しかしどれも失敗作のゴミばかりで、そいつらはただ床でのたうちまわってじきに死んだ。

ボクもこいつらの後を追うのだろうか、ついで吐き出したそれはただの赤だった。喉が燃えるような悲鳴をあげている。悲鳴は奴らには届かない。いや、ボクを見る目はどれもひどく冷たい。それこそ、そこいらに転がっている虫の死骸の濁った瞳のほうが、何十倍も人間的であるくらいに。しかしうつろな目にうつるボクの目もまたうつろだった。絶望だとか、そういう言葉がまるでしっくりくるような。届いたとしても、無意味なのだと、ボクは理解していた。

今にも裂けてしまいそうな喉で鳴くボクは、きっと奴らにとってこの虫達と同じなのだろう。この部屋はさながら虫籠か。ひゅう、と吐く空気まで赤く見えた。腹の中で食い破るようにうごめく虫達と、それを抱えたボクはきっと同類なのだ。しかし完全に同じではない。奴らが抱えたボクは、その腹を食い破って外に出られるのだろうか。虫達は失敗してしまったが、あるいは、ボクならば。

真っ赤にはいつくばって鳴いたのは、ありえはしない虫の咆哮だったのだ。お前らの喉を噛み切ってやろうじゃないか。ボクは背中の翅を広げた。まだ動ける。ひとつ、吐き出した虫は血にまみれながら空を飛んだのだ。虫籠から逃げる虫はどんな気分なのだろう。ボクは思った。ちっぽけな虫さえ捕まえられない、お前らはみんな虫以下のゴミだってね。

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