氷はゆうらりと熱を奪っていく。触れた頬の感覚は既に無い。ただ身体の芯だけは馬鹿みたいに熱くて、なんだ、あんなガキにやられるだなんて、俺もまだ修行がいるな、トミー様はまったく本当に容赦ねぇなぁ、俺はまだ死んでねぇよ、なんて。やけに思考は明瞭で、つい先程のトミー様の怒声だってしっかり聞こえた。危ねぇ危ねぇ、命拾いしたのは良いが、敵に助けられたってのが情けないもんだ。しかし早く起き上がらないと、トミー様が勝っても(ないとは思うが)負けても、俺はこのアイスヘルに取り残されちまう。情けないとかそういう問題ではないのだ、早くしないとどっちみちおだぶつさよならこんにちは黄泉の国、である。俺ひとりでここから本部に戻る自信は正直無い。バリーがいればなんとかなるか…?どうだろうな。
まったく、厄介なことになったもんだ。帰ることができたなら真っ先に熱い風呂に入りたい。飯でも良い。その前に報告か?そうしたらその次は自動的に罰だろう。畜生、ついてねぇ…セドルの奴に馬鹿にされるだろうな、あの目玉フェチめ。あいつの顔が思考に浮かぶと、なんだか腹が立ってきた。テメーだってジュエルミート持ち帰れなかっただろ。いっぺん死ぬか?おお?テメーなんか宿にする価値もねぇ。帰ったらまずセドルを殴ろう、風呂も飯も報告も全部それからだ。俺は心に誓った。冷たい地に伏す俺の口からは白い息が昇る。「…しね、セドル」。呟きは風に消えたがしかし、俺の喉は確かに震えていた。

死体は喋らない

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テーマ「人外ファンタジー」
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